おおたまラジオ

しまいには世の中が真っ赤になった。

第14節 レアル・マドリーVSセルタ ただいま連勝街道なり

クリスティアーノハットトリック。役者が決めるべく決めて試合を終わらせた。セルタがボールをポゼッションして、マドリーがカウンターという図式。開幕当初の勢いは無いともメディアに言われているセルタであるが、チームとしてやるべきことがきっちりと確立されており、マドリー相手に堂々とした試合を演じた。このクオリティを維持して、より90分間というゲームのなかで自分たちのペースを自己管理できればセルタは大丈夫だろう。そのセルタを力で叩き潰したのだからマドリーがただただ強い、という話だ。常勝軍団には怪我人続出といった不安要素もあるが、間違いなく良い風が吹いている。点を取るべき選手が取っているという事実がより大きな白い背中を後押しする。良いクリスマスを迎えることは必然だろう。

ここで敢えて苦言を呈するならば、クロースの守備問題か。開幕当初に比べて、その声は静かになったが、クロースが持ち場から離れて前にガツンと出ていったときに、結果的にマドリーのボールに出来なかった場合のリスクマネジメントはまだ脇が甘い。この試合ではイジャラメンディが残ったりして、クロースのサポート役と彼よりも背後のケアをしていたが、クロースの所で潰しきれなかった時に最終ラインの前にポッカリと空いたスペースを使われた危険なシーンも。

しかし、ハメスの負傷によってシステムを4-4-2にしてから、イジャラメンディとクロースのドブレピボーテに切り替えた後、攻守での安定感が増したことはオプションの1つになるかもしれない。また、ベイルのシンプルな突破も活きるということも証明済みだ。

あのクライフが魅了されたように、ボールプレー時のクロースの存在感はやはり際立っている。圧倒的と言っても過言ではない。そこのバランスをアンチェロッティがどうアレンジしていくか。勝っているチームは変えない方が良い、とも言われているが。アンチェロッティが示す改革の道は果たして。

 

 

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セルタの前からのプレス。高い位置から兎に角ボールホルダーを追い詰める。カシージャスへのバックパス含めてハイプレス。マドリーの最終ラインにプレッシングが効果的なのは、今季の戦いぶりから明らかなこと。最終ラインの配球役に回ることの多いセルヒオ・ラモスに楽をさせない構え。自然とマドリーのボール保持の時間よりもセルタが攻撃をする回数が増える。

 

ただ受け身になるのではなく、マドリーも前からボールを奪いに行く。セルタのビルドアップ要員のメインはあくまでもラドヤ。そこにプラスアルファの動きとして、クローン・デリが降りてきてビルドアップ要員に。自身の最終ラインとリンクして、マドリーのプレスをいなして攻撃を作り直す鍵となっていた。ボールの奪い所がないマドリー。ボールを取り返しても単発攻撃のみでセカンドボール含めた波状攻撃に繋げられない。セルタの豊富な運動量に基づいたプレスと帰陣の速さによるもの。

思うようにボールを前に進められない・運びたいところに運べないマドリー。前線のアタッカー陣、特にベンゼマが機を見ては中盤に降りて受けようとするも、ラドヤやカブラルがマンマーク気味でくっ付き、前を向かせない。ハメスが中盤で浮いたポジショニングを取った場合も、ベンゼマのマークを捨ててハメスへプレスを仕掛けるといった思い切った守備を見せるセルタ。徹底的に良い状態でボールを持たせないようにさせていた。

 

クロースやイジャラメンディが最終ラインに加わって、なんとか浮いたポジションを取ろうとするときも、セルタの統一されたディフェンスによってショートパスの出口が消されて見えない。セルタの統一された守備とは、ボールサイドに人員を偏らせるもの。

ここで、セルヒオ・ラモスやSBへのサポートに回ってボールを受けるイジャラメンディといった高精度のロングボールを蹴れる選手を軸にサイドチェンジや大きな展開。これが後々セルタの守備陣形に恐ろしいほどの打撃を与えた。上がっていたカルバハルやベイルなどがボールを受けて、セルタのディフェンス陣がスライドするまでの時間のズレを有効的に使用。

それでもただ下がるのではなく、前に出てくるセルタの守備意識と組織。パスの受け手を兎に角迎撃。ピボーテやインテリオールのみならず、両SBもそういった守備方法を採り、統一されていた。

 

ノリートとオレジャナがサイドを積極的に上下動して、マドリーの守備陣に捕まらない技術の高さを見せ付ける。特にオレジャナは自陣の低い位置でも受け手になり、サイドで呼吸の出来る選手。マドリーの選手に囲まれてもボールを安易にロストしないテクニックがある。この技術はセルタのビルドアップ要員をおおいに助けていた。

 

マドリーは守備時に4-4-2になるシステムを採用している。しかし、前線からベイルが戻って来るのがルーズな場面もある。比較的カウンターに備えて、高い位置でギリギリまで残ろうとするためだ。つまり、自然とベイルのプレッシングも他の中盤の選手達に比べて高い位置から行われることがある。マッチアップしているセルタのジョニーを経由したビルドアップに対して、ベイルが食い付く。するとベイルの背後に生まれたスペースにいるノリートへシンプルに叩く。そこに中盤からパブロ・エルナンデス或いはクローン・デリが加わり、ノリートとマッチアップしているカルバハルのカバーにペペがやや釣り出される。そしてサイドで2VS2の状況に。ノリートの単騎突撃やSBのジョニーと絡んだ攻めを繰り出すが、ペペがモンスター級の対応でシャットダウン。

 

ラリベイが薄いSBの前後のスペース(主にマルセロのサイド)で上手くボールを受けることで、クローン・デリやパブロ・エルナンデスといったインテリオールを前線に飛び込ませるためのスペースを作り、最低2枚がボックス内に侵入しようと枚数維持の為に懸命に走っていた。また、ラリベイに関してはネガティブ・トランジションの際に、マドリーの最終ライン番としてすぐさまセルヒオ・ラモスたちのところまで走ってチェック。ボールをカルバハルや低い位置にいるイジャラメンディが持っていても、最終ラインに張り付いて選択肢の1つを削る。

 

ボールを奪ってすぐさまカウンターに移るというわけでもなく、あくまでもショートパスを回してボールを進めるセルタ。無理な攻撃はせずに、サイドからの攻撃とパスワークを中心としてじりじりとマドリーの守備陣を追い詰める。守備面で計算の出来ない・しないクリスティアーノ・ロナウドの周りを使ってマドリーの陣地に侵入。セルタは、マドリーの4-4-2の「4」と「2」の間のエリアでボールを支配。

対するマドリーは前に出てきているセルタの裏にある広大なスペースを使って、電光石火のカウンターを繰り広げたいという構図で固まる試合。

 

ここまでは完璧なシナリオを書き上げていた、と言えるセルタ側に誤算があったとすれば4つ。

1つはノリートのサイドで突撃しても鬼神の如くペペが立ちはだかり、跳ね返していたということ。

次にマドリーのゾーン・ディフェンスによる精巧なバイタルエリアへのコースを消す上手さが際立っていたこと。

次にセルタのネガティブ・トランジションも速いが、さらにその上を行くマドリーのポジティブ・トランジションからのカウンターという伝家の宝刀の切れ味が、より磨かれていたということ。ベンゼマが左右どちらでもボールを収めて起点になり、インテリオールが追い越し、クリスティアーノやベイルがトップスピードでプレーを迷うことなく選択。

そして、最後の誤算。セルタのハイプレスによってショートパス主体の組み立てが難しくなっていたマドリーは、ロングボールを多用する思い切りの良さを見せる。味方をスペースやゾーンに走らせ、ボールホルダーに偏って寄っているセルタのディフェンダー陣も走らせる狙い。ボールを基準に人に付くセルタに対して、大きく展開してスタミナ面を削り、エラーを誘発させる試み。これが奏功した。攻守の切り替えが生命線だったセルタの前からのプレスは継続しているものの、後半になるとその強度は落ちた。前線からの上下動が減って、帰陣も戻りきれなくなる。ビルドアップ要員や中盤のスペースを埋めたりと攻守に走っていたクローン・デリのところの守備が甘くなり、前半ほどのタイトな守備が保てなくなるセルタ。

マドリーは自陣の低い位置でボールを奪った時に、CBのペペやセルヒオ・ラモスが機を見て上がる。クローン・デリのゾーンで数的優位を作って過負荷を与えていたこともあるだろう。攻守でセルタを支えていたクローン・デリやオレジャナ、パブロ・エルナンデスがガス欠を起こし、前に出てくる力が大きく失われた。

 

その上で、クロースという優秀な配球職人にイジャラメンディといったクロースのサポート役がマドリーのポゼッションを安定させる。カウンターだけでもなくポゼッションもお手の物。こうなってしまったらセルタは万事休す。

 

戦術の幅を見せ付けるマドリーの戦いぶり。CLやコパも圧倒して、リーグでも首位を走っているだけのチームなだけはある。モドリッチという主力が不在の中で、このペースなのだから本当に常勝軍団の気品を感じさせる。どこまで成熟していくのだろうか。

そして、アンチェロッティが見ている理想の景色とはどれほどの距離があるのだろう。今、一番その頭の中を覗いてみたい監督である。