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しまいには世の中が真っ赤になった。

赤川次郎『三毛猫ホームズの推理』読書感想

 

三毛猫ホームズの推理 (角川文庫)

三毛猫ホームズの推理 (角川文庫)

 

読書がとにかく嫌いだった。
文字を読むのが鬱陶しかった。
小学生の夏休み後半は憂鬱になることが多かった。読書感想文が宿題にあるからだ。それでも、ギリギリまでやらずに抵抗はしてみるが、時間は待ってくれない。渋々、本を読んで感想文を書く。そんな夏を送っていた。
12歳の春――中学校に入る。
何もかもが新しい毎日がやってくると思いきや、最悪な運動があることを知った。
所謂、朝読書の時間である。朝の10分間を読書に当てるという行事。
そんな億劫になるような時間を紛らわすためにも、手軽で面白い本はないかと母親に尋ねた春。
母は間髪入れずに、自身が学生時代に読み耽っていた本を勧めてくれた。
それが、本作。
赤川次郎の『三毛猫ホームズ・シリーズ』との出会いだった。
読書嫌いを吹き飛ばしてくれた魔法の本である。
ミステリファンとしてだけではなく、読書家としても思い入れ深いのが本作。
とにかく、軽くて読み易い。

しかし、心に残る重さ。
それでいて、読書を飽きさせない絶妙なユーモアセンス。大味なトリックに関しては、今となっては笑える話の1つだが、エンタメとしての頂点を極めているといっても過言ではないかと。
本格ミステリファンが唸るような密室トリックも本作にはある。

馬鹿馬鹿しいと言うのは易し。それでも、大仕掛けなトリックを用いた本格感がある。そこにユーモアのエッセンスを採り入れる。軽妙なミステリとしての完成度は高く、本格ミステリファンでも一読の価値はある。
決して楽しい物語ではないのに、この本を読んだ時の衝撃と胸に溢れた感情は色褪せるものではない。
読書を通じて得た〝初めてのノスタルジー〟や悶々とした読後感は、どんなトリックやロジカルよりもカタルシスとして刻まれている。
そして、後味の悪さはシリーズ随一。読書を好きになった本としては、異質かもしれないが……。
これほど出会いに感謝した本は金輪際現れないだろう。

まさに原点である。