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可哀相じゃない!

フランスミステリ 感想メモ

 

わらの女 【新版】 (創元推理文庫)

わらの女 【新版】 (創元推理文庫)

 

カトリーヌ・アルレーわらの女』を読む。フランス流心理サスペンスの傑作ですが、作品紹介で結構なネタを割っているので読む際は純粋にプロットを楽しむのが吉。34歳の幸薄い女と老秘書が結託して、大富豪を蠱惑する流れが楽しい。丁寧な筆致で男女の心理戦を描き、そこからの一捻りは想定内であるけども、サスペンス性は抜群。イマドキの作品に慣れ切ってしまい、それでも期待を裏切られ続けたい読者には物足りないかもしれませんが、良く出来ている作品だと思います。

 

 

 

騙し絵の檻 (創元推理文庫)

騙し絵の檻 (創元推理文庫)

 

ジル・マゴーン『騙し絵の檻』を読む。傑作なので二回言います。傑作です。オールタイムベスト級です。16年前の冤罪を晴らすべく刑務所にぶち込まれ釈放された前科者が、自身の過去に決着をつけるため探偵役を行うハードボイルド風味から「真相を明らかにして犯人をぶち殺してやる」気満々描写にカットバックを駆使した技術が良い。そして、サスペンスに流れる訳でもなく、これがきっちりしたフーダニット本格ミステリなんです。ガチなパズラーです。なんといっても真相のシンプルさを巧妙に隠蔽する技巧に加えて、それらをカバーするために複数の仮説を提示し、消去していく終盤の解決篇が好きすぎる。そして明らかになる真相のシンプルな鋭さ(10ページ以内に収まる)と限りなく真相を見え難くしている作者の腕が冴えまくっています。確かに犯人を支えているトリック自体に粗もあります。しかし、それを引っくり返すテクニックが凄まじいです。視点の錯覚というべきでしょうか。味わいとしては素朴な癖についつい解決篇を2度読みしたくらいのエグい破壊力なので必読です。解説の法月綸太郎のハイテンションも頷けるものでした。

 

シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)

シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)

 

セバスチアン・ジャプリゾ『シンデレラの罠』を読む。『探偵であり、証人でもあり、被害者でもあり、そして犯人でもある』という一人四役の構図がトリッキーで熱烈に宣伝されていますが、本格仕立てではなく、サスペンス風にその一人四役をどのようにプロット上で成立させているかが主題にあるように思えます。それが本当に良く出来ています。記憶喪失の語り手を用いることで、事件を後から追っていく形式も物語上不自然なく作り上げているのは流石。〝わたし〟を巡る物語として上手に翻弄される作りになっています。締めくくり方の洒落た感じなんかはフランス的だと思いますし、連城三紀彦のルーツの一つが本作らしく、連城との繋がりにニヤニヤ。

 

死者を起こせ (創元推理文庫)

死者を起こせ (創元推理文庫)

 

フレッド・ヴァルガス『死者を起こせ』を読む。ユーモアミステリの佳作。まーまーです。キャラの魅力や掛け合いがエスプリを効かせていて退屈しませんが、ロマンス絡みもあり、もう少し削れそうな気も。ミステリとしては、突然ブナの木が庭に植えられているという奇妙さが目を惹きます。そこからの失踪事件は、ミステリ読みなら想像も難くない展開を見せますが、それを踏まえた上でのプロットは前述の通りキャラで読ませていくので楽しいですし、捻りもあります。ブナの木を植えたことによる企みは面白く、執念を感じさせます。しかし、翻訳モノの災いというか宿命というでしょうか。犯人特定に至る手掛かりは日本人にはピンと来ないです。アンフェアというわけではないのですが、こればかりは仕方ないことでしょうね。

 

マーチ博士の四人の息子 (ハヤカワ文庫HM)

マーチ博士の四人の息子 (ハヤカワ文庫HM)

 

ブリジット・オベール『マーチ博士の四人の息子』を読む。メイドVS殺人者の手記バトルが全編に渡って繰り広げられているユニークな作品です。トリッキーな構成で、殺人者の日記をある日メイドが偶然見つけ、マーチ博士の四人息子のうち誰が殺人鬼なのかというフーダニットが興味深いです。しかし、肝心の四人息子の作りが甘く、正直よく分からんしどうでもいい笑。その日記に震えて、メイド自身も記録を付け始めるのですが、それが相手にバレて大変!交換日記調の遣り取りになるところとか、サスペンス性も高まりつつもどこか抜けている感もあり、奇妙な読み応えです。結末としてはかなり疑問的で、綱渡り的なものの割には伏線はアレだけ?というストンと落ちない感触も。興味深かったのですけどね。

彼の個人的な運命 (創元推理文庫)

彼の個人的な運命 (創元推理文庫)

 

フレッド・ヴァルガス『彼の個人的な運命』を読む。キャラの造形が上手いですね本当に。本作は三聖人の掛け合いが少ないので、そこを期待していると肩透かしですが、主人公のルイが冒頭から引っ張っていきます。ミステリとしては、連続殺人犯のクレマンは知能に問題があり、一種の信頼のできない語り手形式に乗っかっており、クレマンを庇いながら真犯人を探すというのが主題です。フーダニットに加えてミッシングリンクと個性豊かで強烈な謎を揃えており、殺人のルールに関してはあまり感心しませんでしたが、フーダニットの伏線は技巧的かと。コージーミステリとしては『死者を起こせ』の方がいい具合になっていましたが、こちらはより分かり易いミステリ的に仕立てているようになっ ています(それらの企みが成功しているかどうかは別として)。あくまでも個人的にね。