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おかえり、ビエルサ!リールの戦術分析

皆、大好きビエルサが監督として帰ってきた。その話題性から、リーグ1ファンを超えて色んなサッカーファンがリールに注目しているでしょう。

開幕して1勝2敗。順風満帆な滑り出しとは程遠いけど、結果だけを求めるならビエルサではなくて良いじゃんという擁護したい派。どれだけ試合の中身が面白いか。どんな試行錯誤をしてチャレンジするのか。そこに対する興味は尽きない。

開幕戦からリールのポジショナルプレーの仕込み具合は楽しかった。本記事は1節~3節のリールを分析したものです。

 

ビエルサのリールのコンセプト】

 

 

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リールは攻撃時3331 334 「4」は2WG+トップ下+CF

FWはDFラインに張り付きよりも、右サイドの作りの際には降りる。その場合はトップ下が最前線。

守備時541~532

とにかくプレッシング。プレッシング隊の二度追いは当たり前。相手GKには蹴らせてナンボ。DFラインで降りる相手アタッカーにはマンマーク。5バックだから枚数はあるのだけど、前の列の選手がカバーするから結構付いていく。

CBが回収してボールを持つと、FW-SH間の狙って持ち運ぶ。前プレ相手のMFラインを下げさせつつ、縦パスを送る。CBの配球力が攻撃時のスイッチになる。この辺は、ビエルサの弟子でもある昨季のサンパオリのセビージャ(序盤の序盤)や今季のペップのマンチェスター・シティと同じコンセプト。結局、最高に気持ち悪い監督たち(最高の褒め言葉)の大枠は似るもの。

CBを配球係として、旋回を使ったサイドの三角形をいかに作るのかがリールのテーマ。5レーン理論的ポゼッションに加えて、サイド攻撃中心なのはネガトラ時のCHなどのプレッシングを考えているから。攻守一体のコンセプトが一つの枠としてあり、そこに541~532といった撤退守備もあるのが、ビエルサのリール。

 

【三角形のパターン例、サイドチェンジ、リスク管理

・ビルドアップ時、横幅WBにボールが入ったら、最前線から一枚(WG orトップ下or CF)がHSレーンで斜めや横に位置してワンツーor外のアタッカーの縦関係といった三角形は気持ちいい。相手SBの外側に位置している選手(WG orトップ下)が、HSレーンに入って外のWBを空ける。DFからすれば死角から入って来た選手に意識が向くのは当然で、サイドの三角形(この場合はCB-WB-WG or トップ下)を作りつつ、外(WBだったりWGだったり)を空ける動きを駆使して前進。そこからサイドチェンジをするのが特徴。数的優位を用いて同サイドからの崩しよりも、とにかく逆サイドへ。

・ボール保持者のCBを起点に-横幅WB-HSレーンのトップ下の三角形をサイドで作る(この場合はWGが空く)。そこから更に人数を掛けて同サイドからというわけではなく、相手DFの横スラ誘導目的から、サイドチェンジの意識はとても強い。同サイドの人数を掛けた場合よりも、逆サイドの大外で待機している味方へ。すると、絞り気味の位置取りの逆WBがサポートに加わるから、サイドは常に最低でも2枚確保できる仕組み。

・ボール保持時、WBは高い位置で外のレーン。外の選手(WG orトップ下はレーンを交換するよ)はHSレーンに移動して降りる動き。中央の選手(WG orトップ下)は裏取りの動き。降りる動きとDFラインを下げる裏取りはセット。

そして、ボールサイドではないWBは外張りではなく、IH的位置取り。ボールが自身のサイドに来たら、すかさず外張り。基本的には逆WGへのサイドチェンジなので、それを追い越すのが仕事。馬並みの仕事が求められる。ただ、初期の位置取りはリスク管理の一環。それに関してDFラインから3CBがCHゾーンに飛び出して潰す場面も目立つ。本職のCHは相手2トップ間、2トップ脇でWBの横ライン、HSレーンからのレイオフ準備などで、中央~ボールサイドのHSレーン近くで待機。そのためにバイタルが空くから、3CBが降りる相手FWの動きにはデートで対応。

サイドチェンジがあれば、IH的ポジションを取っていたWBはオーバーラップ。外張りの選手がカットイン型の場合は、基本は外から追い越していた。開幕戦のナント戦では右WBのアンダーラップもあったけど、それはWGの選手と相手DF(特にSBとカバー位置のCB)次第。

 

【サイドチェンジ後】

リールのCHにはCHでマークするのがベター。逆WBがIH的位置取りをしているからといって、そこを経由してボールを散らすイメージはあまり無い。それよりも、相手CHが空けたスペースにリールのトップ下が入るので、もう一枚のCHはボールサイドよりも中央寄りでカバー。リールの横幅WBに展開されるとSHが1stDFになるのだけど、前述のように相手SH-CH間が空いているわけで、相手DFのSBは縦関係を封じようと前に出ると、裏が美味しくなる。そこでリールのCHがパラレラで裏狙い。幅を使ってDF間の距離を空けて、更に守備組織を分断するようにランニング。スペースメイクからアタックへ。サイドチェンジをしても、最前線へ運ぶまでに3人目の動きが必要なシーンはある。基本的にはサイドチェンジ後はWGとWBの2枚の関係性しか無いのだから。そこに登場するのが、CFかCH。ただし、CFはエリア外やDFライン外に出したくない意図があるので、CHが絡むしか無い時もある。そのために前述の逆WBのIH的位置取りが必要になる。

前の味方が裏取る良いポジションを取っていなかったら、外に叩いてクロスやサイドを変えてダイアゴナルな裏取りでSBゾーンを突くWB(WGはペナ角に移動してDFを釣る)ので、基本は手数を掛けない速いサイド攻撃。WBがIH的位置取りでHSレーンに入ったら、WGは外張りで逆サイドに振っても三角形(CB-WG-WB)を作る。

 

 

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サイドの数的優位から前進→サイドチェンジ後のビエルサが作り出したい状況。クロス後のプレッシング込みのデザイン。しかし、クロス攻撃に期待が持てない。

ボールを保持して攻撃。プレッシングで回復。開幕して間もないが、就任初年度の開幕してまもないチームにこれだけのポジショナルプレーを導入したのは流石。ビエルサのエッセンスは現段階でも見られるが、成績通り勝てていない。何か一歩足りない。その一つが大きいのだけど、3節時点での問題点について触れる。

 

【課題=プレッシングとサイド攻撃】

相手のDFを広げるためにピッチ幅を目一杯使う攻撃をデザインしているから、ネガトラ時のプレッシングが散漫気味に映る。バックパスでGKに蹴らせるために直線的な二度追いは鍛えられているのだけど、リール側の最終ラインの位置取りが高い場合はコンパクトさが保たれているから、選手間とスペースの狭さから強度の高いプレッシングが連続的に行うことが出来ているが、それ以外のケース、ポジション的優位を作り出すための定位置攻撃におけるチームの距離感によって、ダイレクトに消耗が激しくなるプレッシングが強いられる展開になる。傾向としてはボールサイドではないWGとCF以外はプレスバックの鬼。一応5バック化撤退があるから、鉄砲玉のようなDFばかりではないけど、ポジトラ時に中央を一回使って、相手DFを収縮させて大外WGが出来ない。カウンターの基準点はある程度の位置取りの高さをもって最前線で固定されているが、起点が整備されていないから。もともと、サイドチェンジの要素が強いチーム作りなので、CF降り+大外WGへロングボールでも最前線へボールを送る点では問題ないけど、WGの質があまり良くない点も響いている。相手DFをボールサイドに横スラさせて逆WBへのサイドチェンジで縦を突く方が期待感は持てる現状。それは2枚の関係性があるから。WG単体だと物足りない。だから強烈なプレッシングはカウンター的要素よりも、定位置攻撃においてポジション的優位を作り出すためにボールを保持して組織を作るための回復手段の意味合いが強い。当然プレッシングとポゼッションを分離して考える話ではないが、それらの要素が自分らに巡って降りかかっている点は見逃せない。

 

オールコートマンツーマンDFなんて夢のあることをしていたビエルサからすれば、若干ピッチ内での遊び(工夫)が大人しくなった印象。それは現代サッカーでは、前プレ=限定的なマンツーマンDFが浸透していて、ビルドアップの均衡状態を形成し、相手によるボール保持の時間帯を殺すチームが増えたからもある。それでも、90分間プレッシングを掛け続けるコンセプトよりも、DFラインの高低をコントロールしてプレッシングと撤退を使い分けるのがポピュラーなので、ビエルサやパコ・へメスなどといったフットボール界での良い意味での異物感要素は薄まっていないから、今後がどうなるのかは読めない。

先ずは、相手CBを如何に動かして、クロスを供給するのかが当面の課題か。現段階ではエリア内の相手DFが準備出来ているから厳しい。勿論、クロスの質も。そこから見られるクロス攻撃の収支(ニア、中央、ファーの3点選手配置は出来ている)が結果にどう直結していくのか。プロの世界なので結果も気になりますが、ビエルサがどのように手を打ち、変化させていくのか。とても気になります。