おおたまラジオ

しまいには世の中が真っ赤になった。

マニータを経て ネイマールとの本当の別れ

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エスパニョールを一蹴したバルサ。今季のエスパニョールはキケ2年目の下、実に成熟した442が選手の特性にハマっている印象が強い。今季はEL圏争いもあるのではと開幕戦のクオリティから妄想したくらい。特に、レオとジェラールの2トップの破壊力というか前進する力はリーガでも上位クラスであるし、ハビ・フエゴ、ダルデル、マルク・ロカ、グラネロ、ディオプといった442を締める豊富なCHの存在感は立派なものがあるし、SHとして攻撃のみならず守備時のポジショニングとしても際立ってきたピアッティのセンスも目立つエスパニョール。

それをマニータで蹴散らしたバルサには驚かされた。

本記事は、エスパニョール戦でのバルサの変化について書いたもの。

 

【本当の意味でのネイマールとの別れ】

 

ネイマールとレオ・メッシの関係性は互いに意識したリスペクトであり、フレンドリーでありつつも、タフな関係だったと思う。MSNというサッカー史に残るような破壊力を有したトリデンテの両翼。試合の中、メッシはネイマールを見て、ネイマールもメッシを見て。今夏の衝撃的で歴史的なビジネスは、ネイマールがメッシをリスペクトしつつもライバルという立場へ踏み出すために、そして超えるために、パリの街でチームの顔として君臨する立場を選んだ。それはメッシへの畏敬の念だけではなく、王国ブラジルを率いるスターの宿命として選ばざるを得なかったものだと思う。

 

ネイマールの移籍は、左SBのアルバを透明人間から復活させた。横幅としてのSBの役割だけではなく、サイドを抉ることが出来る縦への速さ、繰り返されるオーバーラップは、ネイマールを助けるものではあったが、アルバ自身が報われるものでは無かった。ネイマールは4-4ブロックを舐めるような横断ドリブルから中に切れ込むことも出来る。その視線の先にはメッシがいる。フットサル仕込みのボールを受ける技術(デスマルケ)が飛び抜けており、横だけではなく縦への仕掛けも単独でこなせるので、相手SBを混乱に陥れるのは難しい仕事ではなかった。

その圧倒的パフォーマンスは左サイドをネイマール単独で管理するようなもので、バルサがチームとして停滞した時でも、ネイマールに預ければ前まで運べてしまう事実。ネイマール自身の責任感、エンリケ時代のMSN至上主義的前輪駆動型のように歪んでいくチームモデルのバランスを考慮した時、ネイマール自身の守備時の負担も増していった。

以前は、ネイマールが降りる動きをしてからSB裏に抜けることを頻繁にしていたシーズンもあったが、攻守におけるペース配分を考えてからか年々足元への要求が強くなっていったのは仕方ないことかもしれないが、個人的には喪失に近い感情も湧いたのを覚えている。

 

そのネイマールが居なくなった今季。左サイドをそのまま空けるという、ネイマールのスペアで埋めるとは違う手法を披露したバルベルデ。スペアをそのままのモデルに使用しても、それは昨季のサッカーからネイマールを引いて付け足したようなものでしかならず、ネイマールよりもダウン・グレードしたものでしかならない。そういう意味では、今節のシステムは論理的で従来のバルサに正したと言える。時計の針を少し戻したような錯覚を覚えるが、選手の加齢もあって確実に落ちていくもの。特にトランジションの面が顕著であり、それに悩まされてきたバルサだが、IHとブスケツで相手を捕まえるインテンシティは際立っていた。変則的システム変更によって仕掛けるエリア(中央のメッシ)が限定的になったので、ボールを失うスペースが予測しやすくなったことが大きい。従来のメッシが右WG~中央だった場合、右サイドから中に入っていくスタイルだと、ダイレクトにメッシの守備問題が浮上する。そこからラキティッチが釣り出された後のスペースと消耗していくブスケツ問題と向き合ってきたバルサ。それらを整理して一気に解消されたかどうかは様子見であるが、今節のようなブスケツのパフォーマンスならば安心安全のような気もする。それくらいトランジション面が向上していた。

 

ネガトラにメスを入れつつ、脱ネイマール化を図ろうとしたバルベルデ

メッシを中央に配置して守備にスアレスを計算。時にスアレスには横幅の役割を担うことが求められたりするが、復活したアルバがストレス発散する仕組み。スアレスの横幅は物足りないので、サポートはより意識付けられるはず。そのため、誰もがネイマールを見つつ、その安心感からか足が止まってしまうような停滞感は無くなるだろう。ポジティブとネガティブが同居したような雰囲気という意味で。勿論、メッシからの左足の対角サイドチェンジもある。昨季はアルバの一つ手前(ネイマール)へのプレゼントだったりしたけど。

このシステムでは、デウロフェウがどう落ち着くかは分からないが、横幅としてメッシやセメドと絡むことが求められつつ、ドリブラーとしての矜持を示さなければならない。自身の土俵のクオリティで勝負できるという意味では幸せかもしれない。それしか無さそうだから(笑)

右サイドの循環から相手DFを傾け、左SBのアルバで手前のSHを引っ張る。ハーフレーンを広げてイニエスタラキティッチでボールを運んで侵入する機会を増やし、IHのパラレラで相手CHを消すことで、サイドでのスアレスのポストを活かす。そのスペースから塞がっていたはずの中央、その先にはゴールから逆算する筋道を示すかのようにメッシが居る。3得点。それを誇示したエスパニョール戦であった。だからこそ、右サイドの力関係を計算できるセメド以外の選手が必要になるわけで、そこにデウロフェウがハマったら夢がある。

 

ネイマールとの別れが、皮肉にもバルベルデの仕事を絞り易くなったようにも思える。監督としては、あれだけのクラックを手放すことはクラブとしても損失に違いないが、リソースを枯らしていく焼畑的戦略からの脱却、歪んだ遺産に手を付けないといけなかった問題に対して取り組みやすくなったと思う。その一つの解が今節の変則的システムとするならば、バルベルデの柔軟さと明確さによるものだろう。ネイマールがもう居ないならば、当て嵌めて埋めるのではなくフレキシブルに代用しようというアイデアは凄い。バルベルデにそれくらいの割り切りを決断させたのは、間違いなくネイマールの存在感だからとも言えるのだけど。

 

【GK保持時の被前プレに対して】

GK時やGKがボールを持った時に相手が前プレを仕掛けてくるのは日常茶飯事。珍しくない光景となった。それでもCBや前プレ急所の逆SBに蹴り込むかどうか。足元の能力の高いGKを有しているチームならではの悩みである。結局、蹴り込むのも正解だし、我慢して繋ぐのも正解。それらは結果論として議題に挙がるから。

今節のエスパニョールは限定的前プレを仕掛けてきた。対バルサの常套手段である。エンリケ時代は我慢しつつも、最終的には繋げずに蹴り飛ばすしか他無かった印象の試合もあったが、この試合のバルサはGKからのビルドアップを大切にしていた。蹴り飛ばすシーンもあったけど。ピケとウムティティが、ペナルティエリアのワイドに位置取り。もはやテア・シュテーゲンの真横だったり。そして、ブスケツは中央から動かずにテア・シュテーゲンを見つつ、テア・シュテーゲンブスケツを見つつの関係性。IHとの距離感も改善されており、ペップの「ビルドアップは7v5に収斂する」のお約束を見るかのように我慢しながら、相手のプレスを外していた。それには適切なポジショニング、リズム、トラップ、アングルが欠かせない。ビルドアップ面で全体をオーガナイズするブスケツの存在感。ロングボールなどで前への展開を急がずに、スペースとアングルを調整していく。以前ならば、ネイマールが窮屈になっても運べてしまう程の選手だったし、彼がファウルを貰うことで陣地回復を図れた上でリスタートをしてポゼッションを開始することが出来た。そのため縦への展開が求められていたわけで。

ブスケツを軸にライン間に送り込む。その先にはメッシが居る。メッシとブスケツの関係性もバルサを語る上では欠かせない。

被前プレに対して、蹴り飛ばしてどうにかなる可能性があるなら、それでも良いと思う。スアレスの裏取りセンスを考えると現実的であるから。ただ、低い位置から繋ぐことで生まれる価値もある。それが昨季のベルナベウ・クラシコのメッシのゴールまでのプロセスに凝縮されている。省略しなかったからこそ生まれた、メッシがユニフォームを脱いでスタンドに掲げる英雄的瞬間。そのディティールを執拗なくらいに追求していくのがバルサだと思っているので、この路線を耐えながら継続して欲しい。

 

【超個人的な話】

近年、バルサの試合を観るモチベーションの一つに「ネイマールのプレー」があった。それも高い割合で。股抜きやらシャペウといった曲芸は「侮辱的」と映るものの、魅せるプレーとして捉えていたから。何よりサッカーが楽しいから観ているのに、選手たちが楽しそうでなかったら虚しい。その点でネイマールは、相手を見ながら手玉に取れる余裕と技術から、完全に相手を上回っている優越感もあるだろうけど、楽しそうにプレーしていた。ブラジル人のイメージそのままに圧倒的だからこそのエンターテイナー。だから、今夏の移籍は熱心なクレほどではなくても大きなショックだった。

しかし、この修正を見せられたら話は変わる。

これからバルベルデの審美眼によって、戦力の見極めがよりシビアになっていくだろう。CLも始まるし、コンペの両立を強いられるタイトな日程が待っている。どう変化していくか。バルサの試合を観よう。