おおたまラジオ

しまいには世の中が真っ赤になった。

摂取したもの2019年1月

小説は『NHKにようこそ!』だけ。

かつて友人に「お前は絶対読んだ方がいいよ」と冗談で勧められたこともあって、今回が初読みであったが、あまり乗れなかった。

ゼロ年代の想像力』で述べられている倫理的な問題点として浮かび上がる傷の舐め合い的レイプ・ファンタジー構造も然ることながら(不幸自慢的態度のルサンチマンや、引きこもりの社会復帰の困難さは見逃せないが)、自意識の空転と妄想の爆発的連鎖にという補完関係による主観性への突き付け方はド痛いのだけど、共感性羞恥という観点で捉えるには、距離が開いてしまったことなのかなって。

勿論、感情移入できた/できないだけが評価軸ではないが、このニヒリズムと予防線を張り巡らして理論武装した結果として陥った短絡的な陰謀論という自意識への問題提起(社会への接続がない欠落した男性性をどう補完していくか――傷付いた女性との舐め合いによる草食系マチズモの回復)が、ギャルゲー的であっても、そこまで響かなかった。

しかしこの提案に頼らずに、親子の距離が開き完全に承認性が断絶し、都市における半ば孤立状態に陥った青年がどのように回復していくべきなのか。主人公が抱える「生きづらさ」は社会の病巣でもあり、社会への提起にもなるが、インスタントに自己責任論か社会が間違っているの責任転嫁の二択になりがちなのは、作中で示された理論武装した結果の短絡的な陰謀論とさして構造は変わらないのが皮肉である。

 

今月は、なんといっても宇野常寛さんに『PLANETS10』読解記事を紹介していただいたことがトピックになる。

吃驚した。

端的にネットはクソになってしまったと考えている(だから「遅いインターネット計画」)評論家本人に、こういう風に言って貰えるとね。

勿論、『P10』の本分は「戦争と平和」なのであって、私が書いたような記事はそこを逸らしているだけでもあり、メインテーマに上手く向き合い切れていない未熟さは依然としてあるのだけど。

さらにいえば、あくまでも「予想記事」であって「予想」に関しては結論めいた書き方をしているけども、『PLANETS11』がどのような手続きを踏むのかという具体的かつオルタナティブな提案はしていない。つまりプレイヤー側の視点は一切考慮していないし、「編集」の方針は予想したが、アプローチは露も知らずといった具合。

要するに「予想」までの手続きは念入りに詰めた(つもり)だけど、「予想」の着地点は恐らく『P11』の出発点でしかないということ。

2017年の秋頃に「人間の暴力性」と「戦争」を勉強したいと思っていたのも未だに手つかず。そういうツケを払いつつ、メタにズラすことの意味を問われる機会にもなった。

 

 

 

2012年に刊行された橘玲『(日本人)』で引用されているロバート・ノージックユートピア構想において、ローカルな共同体を壊して国家を枠組みのみとして捉えることで、参入退出自由なグローバルな共同体を創っていくという流れは、物語的にも「新世界」へ行く作品の文脈そのものである。震災後に、私たちがどこに向かえばいいのか?その処方箋として、イマ/ココからではなく。完全に「新世界」への物語構造だよなあ。


飯田一史『ウェブ小説の衝撃』は、本当にウェブ小説を知らない人間からすると、各プラットフォームの色分けがされていて滅茶苦茶助かった。ウェブ小説のムーブメントや、書き手と読み手のニーズの分析など単なる印象論ではなく、エビデンスを提出しながら記されているので理解に繋がり易かった。

「E★エブリスタ」では「デスゲーム」モノが流行っている理由も。その「デスゲーム」が「エブリスタ」のシステムを巡る闘争の比喩になっているかどうかは知らんけども、もしそうであるならば『ジャンプ』の「トーナメント制」みたいにね。そうなると『幽遊白書』みたいなのもあるのかどうか興味も湧くし、そのジャンル小説のインフレとそのジレンマともいえる袋小路感から、どのように「新世界」に行くかどうかはリアルタイムの読者だけが得られる充実感だと思う。

本書ではトレンドと、書きやすさと、ニーズの娯楽性が主に挙げられているんだけど、だから「異世界」モノのようにジャンルのムーヴメントが必然的に創作=批評合戦になる構造もあるし、それをモチーフにした作品もあるのだろうか…ジャンルという箱庭における了解と制約は、今のウェブ小説は活発的であろうし、なにか読み始めたい。というか、ついつい言いがちな「なろう系」という主語の大きさから零れ落ちているものもあるのでは?という当然の疑念として。

 

 

池田雄一『メガクリティック ジャンルの闘争としての文学』

さやわか『キャラの思考法 現代文化論のアップグレード』

中沢新一『日本の大転換』

開沼博『社会が漂白され尽くす前に』

五野井郁夫『「デモ」とは何か 変貌する直接民主主義

佐々木俊尚『そして、暮らしは共同体になる。』

雨宮処凛 萱野稔人『「生きづらさ」について 貧困、アイデンティティナショナリズム

橘玲『(日本人)』

新雅史『商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道』

小熊英二『社会を変えるには』

橘玲言ってはいけない 残酷すぎる真実』

飯田一史『ウェブ小説の衝撃 ネット発ヒットコンテンツのしくみ』

川内有緒『パリでメシを食う。』

栗原康『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』

高橋源一郎『丘の上のバカ ぼくらの民主主義なんだぜ2』

松谷創一郎『ギャルと不思議ちゃん論 女の子たちの三十年戦争

岸政彦『断片的なものの社会学

國分功一郎『暇と退屈の倫理学

北田暁大『嗤う日本の「ナショナリズム」』

雨宮処凛プレカリアート デジタル日雇い世代の不安な生き方』

佐々木中『切りとれ、あの祈る手を』

古市憲寿 トゥーッカ・トイボネン『国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由』

吉本隆明 糸井重里悪人正機

さやわか『僕たちとアイドルの時代』

青土社ユリイカ 平成28年9月号 新海誠

宇野常寛『PLANETS10』

宇野常寛ゼロ年代の想像力

滝本竜彦NHKにようこそ!