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しまいには世の中が真っ赤になった。

第16節 エイバルVSバレンシア 実験的3バック

昇格組ながら16節を終えた段階で9位。開幕前のスペインメディアのアンケートでは降格候補として名前の挙がっていたエイバル。現時点でバスク地方に属しているチームのなかで最も好成績を収めているというのも印象的だが、実践しているフットボールもまたそうだろう。ホームの狭いピッチを可能な限り広く使い、大雑把な組み立てはしない。この試合では、中盤を省略してロングボールを蹴り込んだ場面はとても少なかった。バレンシアの前からのプレスにおいてGKが回避するために前線に蹴り込むことはあったが、必死さ故にその場凌ぎのために闇雲に蹴るのではなく、パレホのところや新システムを採用してきたバレンシアのWBとCBの間にあるスペースを使おうという狙いが見えた。その上で、サイドから迫力を見せるシーンを作りだし、決定機を演出しようとはしていた。冷静に試合を運んでいたのはエイバルの方だろう。それでも勝てないのがフットボールということだろうが。

一方のバレンシアは勝利したもののとても苦しめられた。アンドレ・ゴメスの中盤でのキープや運ぶドリブルによるスペースメイクや相手の引きつけというオプションを欠いていたということもあって、前線と中盤が思うようにリンクしない場面もあったり。また、ネグレドとパコの共存という新システムによって、攻守に敵以上に味方が混乱していたことも印象的だ。まだまだ突き詰めていく部分は多数ある。ブレーク前に課題として大きく残ったが、チームにとってはプラスと考えていいだろう。攻撃面では前線の2人が連携して同時に輝く部分は数回ぐらいしか発揮できなかった。それでも、やはり浪漫がある組み合わせである。終始空回りしていたわけでもなく、形を見せようとする姿勢は伝わったのだからポジティブに考えるべきだ。

そういった実験を手探りでしながらも、この苦しい試合で勝ち点3を得て終えたのだから、バレンシアは4位以上を狙う事も出来る自力があるということだろう。

 

 

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バレンシアは2トップを軸に前からプレス。また、バレンシアがボールを持ったら、エイバルも前から奪いに行く。どちらもペースの探り合いと奪い合い。エイバルは基本的にビルドアップ要員兼カバー役として3CBを自陣に残しており、GKのイルレタに戻してロングボールを使ってバレンシアのプレッシングから回避。ピアッティ-オルバンの間のスペースや裏とフェグリ-ムスタフィの間のスペースやその裏へ蹴り込むイメージ。

 

ネグレド、パコの共存のために中盤を削らず、最終ラインから1枚減らしたバレンシアフェグリといったWBを中央に絞らせて、そこで数的優位を作り、デ・パウルといった間受け職人によるスペースの侵入でボールを落ち着かせたい。そこから前に進みたいものの、エイバルのコンパクトなプレッシングにハマる。ペースが掴めない立ち上がりで、バタバタとした無秩序な雰囲気が漂う。

 

自陣でブロックをセットするわけでもなく、エイバルも前から積極的に前からプレス。ゴールキックや前プレ回避のためにディエゴ・アウベスからのロングボールはネグレドのフィジカルを活かして基本的にターゲットに。ある程度計算の出来るネグレドは流石だ。

 

バレンシアのビルドアップ要員でもある3CBにボールが入ったら、エイバルは2、3枚のプレッシング要員が仕掛けるが、パレホが浮くポジショニングを取る。ボールを楽に受ける。エイバルのドブレピボーテの一角でもあるダニ・ガルシアが慌てて奪いに行くが、ワイドに張っているムスタフィを使って、広大な2トップ脇からボールを進める場面もあり、パレホが中盤とビルドアップ要員の鍵を握る存在感を示す。

 

両WBでもあるフェグリやピアッティを中に絞らせて、マッチアップする相手を引きつけ、そのWBの裏のスペースにネグレドを使って、CBを釣り出す等、バレンシアの最終ラインは中盤から経由する拘りのない様子。中盤を飛ばす組み立てを見せるが、思い通りに事が運んでいるわけではない。エイバルの中盤のプレッシングの網にハマっているのは、全体が中央に集まりすぎているため。大外を使いたいので、ビルドアップ要員が配球先を柔軟に変えているが、WBがなかなか反応できない。本当はWBの上下動とワイドなポジショニングでエイバルの距離感を広げたい。前線が前を向いた状態でボールを受けることが中々出来ない苦しいバレンシア

 

エイバルも同じようにバレンシアのWBを引き出し、CBを外に釣り出してボックス内の枚数を減らす狙い。どちらも同じような崩し方を見せるが、攻守にハマっているのはエイバル。ピボーテボアテングが持ち前のフィジカルを活かして広いエリアをカバーして、ボールをキープ。セカンドボールやイーブンボールを競って強さを見せる。ここでボール

を持てるのが強みだろう。

 

どちらかにボールがゆっくりと落ち着く場面は少なく、攻守が入れ替わる。エイバルの最終ラインにボールが収まれば、バレンシアはラインを上げる。ボールホルダーに近いピボーテに対して、デ・パウルがしっかりと付く。ボールサイドに寄せるバレンシアディフェンダー陣。エイバルのもう1枚のピボーテは比較的浮くが、最終ラインに落ちてどうこうということはなく、サイドを変えるという機転も利かさず、そのボールサイドの奥にロングボールを蹴り込む。

 

再三述べているようにフェグリやピアッティが中央に絞ることが多く、大外が空く。その対処でムスタフィやオルバンが、外に釣り出される構図がちらほらと見られるバレンシア。ミラーゲームとなっている試合でエイバルの攻撃の狙いの方がバレンシアよりも具体体に実を結んでいる。後はそこの部分で、バレンシアの最終ラインの対応力を上回る力や連携を見せればゴールは近い感じだが、決定機というものもなかなか作らせないバレンシアの守備陣の強さや上手さが際立つ。

そもそもここまでエイバルがボールを前に運んでいるのは、バレンシアのパコ、デ・パウル、ピアッティ間のスペースとネグレド、デ・パウルフェグリ間のスペースに入って来るエイバルのボールホルダーへの対応が遅れることから。デ・パウルの守備負担が増す展開に。

 

ネガティブ・トランジションで比較的高い位置を取って、カウンターに繋げたいことから最終ラインと上手くリンクしないバレンシアの両WBへのカバーに追いやられるCBやハビ・フエゴとパレホ。この辺の個人での管理・対応は流石と言えるが、守備に奔走していることは拭えず。後は自分たちの時間が来るまで決壊せずに、どこまで辛抱できるかどうか。

 

CBが大外に釣り出された場合は、ハビ・フエゴが後方のケアのためにスペースを埋めるが、ピボーテのところが空いてバイタルエリアががら空きになったりと、着々と危険な場面は作られていた。綱渡りの守備が続くバレンシア。しかし、ファイナルサードでの精度を欠くエイバルといった構図。

 

お互いにビルドアップ要員は相手の前からのプレッシングを剥がす術を心得ている。時折、ハビ・フエゴが最終ラインに落ちて、エイバルの数的同数のプレッシング要員に対して数的優位を作る。そして、前線への供給源でもあるパレホを浮かせる。パレホを起点に展開。エイバルと同様に2トップ脇からボールを進めるバレンシアネグレドがゾーンで受けて、パコが裏抜けへ、というメリハリのある2人の共存の狙いが徐々に形成されていくが、精度はまだまだ。

 

エイバルはボールを回収した後に、繋いで上手さを見せる。昇格組とは思えない堂々とした戦いぶり。ダニ・ガルシア、ボアテングといったドブレピボーテの前後におけるチャレンジ&カバーがしっかりとしており、変に中盤を空けてバランスを崩すことがない。じりじりと確実にボールホルダーを追い詰めており、統率力のある試合を披露。

 

しかし、フットボールは必ずしも良い雰囲気のあるチームに微笑むものではない。エイバルのセットプレー直後のバレンシアカウンターアタックからゴールが生まれる。パコが押し込んで苦しんでいたバレンシアが先制。エイバルはセットプレーにおける人数の掛け方といったリスクマネジメントを誤ったことから失点。最終ラインに残ることの多かったボアテングの対応が緩かったとも言えるが、起点となったデ・パウルの技術の高さを示した見事な速攻であった。

 

先制してバレンシアが落ち着くかと思いきや、まだいつもとは違うシステムのために両WBを出口としたビルドアップ面やプレスの掛け方がちぐはぐ。個々の対応でカバーしているバレンシアの守備陣。エイバルの攻撃がフェグリといったWBを狙う大外から、ではなく、コンパクトなバレンシアの守備網にハマる。自分たちのペースで試合を進めていただけにエイバルは、失点からメンタル的にダメージを負ったのか少し焦った攻撃が見られる。

 

後半の頭から攻守に絡んで上下動していたサウール・ベルホンに代えて、アブラハムを投入。消耗の激しいポジションでもあるWBの一角を変更。フェグリが中でプレーする傾向があり、原点に立ち返って逆手に突きたい狙い。

エイバルのビルドアップ要員に対して、守備時に人に付くというよりかはボールの方に、最低限のスペースを埋めて比較的自由なシーンがあったパレホがポジションを捨てたプレス(マークは受け渡している)で、プレッシング要員を増やす。外側を良い様に使われているので、出所にパニックを起こさせようとする。しかし、デ・パウルピボーテ番に徹しきれず、剥がされた後は大外でもあるCB(リージョ、ナバス)からそのサイドの深いところにボールを配球して、バレンシアのCBを釣り出す狙いは変わらず。

 

CBの持ち上がり(ポジショニングの細かな修正)やドブレピボーテの1枚でもあるボアテングが浮いたりするので、バレンシアのプレスがそこまでハマらない。ボールを保持するエイバル。デ・パウル、両WBのプレッシングの掛け方やタイミングは依然として修正されておらず、エイバルのボールホルダーがノープレッシャーな場面も。攻守に空回りしている感があるバレンシアのWBが目立つ。

 

そこでヌーノ監督が動く。フェグリに交代してバラガンを。その後にピアッティのところにガヤを。システムは変わらず。しかし、両WBを本職がSBの2枚を投入して、マッチアップ面での守備的タスクをより明確に。エイバルの活発なWBをしっかりと捕まえたい意図を感じさせる采配。

そして、攻撃はデ・パウルやパレホやWBを起点にネグレドに当てて、衛星的或いは裏抜けも上手いパコを、といったイメージで単純化

 

ガヤやバラガンが守備でマッチアップをする相手をきちんと捉えて、安定した対応をするので、CBが釣り出されることが無くなる。中盤のハビ・フエゴやパレホがヘルプに行き、スペースを埋めてサイドに蓋をする。

 

エイバルは前線にマヌ・デル・モラルの代わりに高さのあるレキッチを、というカードを切ったが、前半ほどサイドで良い攻撃を繰り出すことが出来なくなった。良いクロスを供給したいという狙いは分かるが、時間が少ないエイバル。焦ってはファウルをして、バレンシアに時間を使われるという試合終了近くの悪循環に陥る。時間稼ぎをしたバレンシアにはイエローカードアディショナルタイムは4分と色々とオマケは付いたが、冷静に局面を対処して終了。