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しまいには世の中が真っ赤になった。

芦辺拓『十三番目の陪審員』読書感想

 

十三番目の陪審員 (角川文庫)

十三番目の陪審員 (角川文庫)

 

 

刊行年(1998年)からして気鋭のリーガル・ミステリという位置付けで良いだろう。

社会派としての要素を取り込みつつ、本格としての本分を失っていない、このバランス加減が凄まじくキレている。

作者によるあとがきには『逆本格』と書かれてあり、これがまた目から鱗でありながらも、正鵠を射ているから末恐ろしい。まさに本書を凝縮した言葉である。

〝人工冤罪〟を企てたクライムサスペンスの皮を技巧的に被りつつ、法廷モノとしての丁々発止な様を軽やかに描くことで、〝DNA鑑定〟や〝司法の在り方〟などといった社会的な部分に対して極めて鋭い切り口を堪能できる。

それだけで留まっておらず、本格としての体裁を整合的に表現されているところが秀逸。なかでも、本書における陪 審員制度に一石を投じるシーンと密接に絡み合う〝冤罪と有罪〟の狭間で揺れるパラドックスへの見事な切り返しは拍手喝采ものである。

逆説的な状況に対して、〝どちらも手にする〟という無理難題に対して、捻りを加えつつもストレートに描いた傑作。

気持ちの良い読書体験であった。

気鋭のリーガルミステリとして鋭い切り口を要所に挿む社会的でありながらも、本格であってこの匙加減が恐ろしいまで作品を高めている。二律背反的状況にストーリーが流れた際の鮮やかな切り返し。この切れ味を傑作と言わずして何と言うのか!