おおたまラジオ

しまいには世の中が真っ赤になった。

ビジャレアルの今 4-4-2は最適解なのか

 

 

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フアンマ・リージョ曰く、フォーメーションはメディアといったあなたたちが都合よく解釈するためのものである。彼から影響を受けたペップ・グアルディオラも然り。「フォーメーションの数字は電話番号のようなもの。意味など無い」とコメントをしたことがある。

しかし、彼らとは違って近年のビジャレアルにとってはフォーメーションの数字は決して無意味な数字の羅列ではなかった。システムにソリッドに縛られることで、流動性とはかけ離れたものであるが、秩序を生み出しては結果を出してきた事実がある。

シメオネアトレティコを模倣したかのような綺麗で強固な4-4-2ブロックは、リーガで確実に勝利を重ねてきた。その守備ブロックを作り上げたのが前任者のマルセリーノ・ガルシア・トラルである。

しかし、今シーズンのビジャレアルを指揮するのはベンチ前で情熱的な姿勢を見せる彼ではなく、フラン・エスクリバだ。今季31試合を消化した時点で失点数24――この数字はアトレティコと並んで最少失点数を記録していることを意味する。

ビジャレアルは失点を抑えつつ順調に勝ち点を重ねており、CL・EL権争いを見据えられる高順位に位置している。

CLプレーオフ前のマルセリーノ監督の電撃退任劇から始まった今シーズンのビジャレアル。慌しいスタートを経て、冬には次期エースと目されていたアレシャンドレ・パトの中国移籍もあったことから、チームを構築する上では不確定な要素が多すぎたと言えるだろう。

フラン・エスクリバは何を思うのだろうか。今季、エスクリバ監督の志向しているフットボールとの乖離は見受けられることがある。それは勿論、前任者の電撃退任劇による準備期間の短さが影響していることだろう。監督のエッセンスを惜しみなく注ぐよりも、安定した成績を出すためにはマルセリーノの遺産を使う方が早くて賢い。勝っているチームは弄らない方が良い。これはフットボールの世界では常識である。エスクリバもそれに倣ったわけだが、ビジャレアルとしては難しい時期に入ったと言える。ある程度、勝利を収めて来たからこその次なるステップの話である。この先に伸び代があるのかどうかという話だ。

シーズンも終盤。新しく試行錯誤の実験をするにしても時間はもう無い。現在のコンペはリーガのみであるが、CL・EL圏争いの最中である。

筆者は今シーズンのビジャレアルを「変化を睨みつつも動けなかったシーズン」と評したい。

恐らくエスクリバとしても、監督としての色を付けるためにも動きたいが動けないジレンマがあったはずだ。マルセリーノの遺産をバランスよく食い繋いでも、チームとしての消費期限が延びることはない。チームを支えている骨格は確実にパフォーマンスを年齢とともに落ちていく。そして、安くて才能のある若手の補強と多額の移籍金ビジネスによる引き抜きを繰り返す。中堅クラブとしての立場を理解しているビジャレアルは、降格を機により堅実な路線を辿っている。それはクラブ運営以外にもチームスタイルとしても現れていることだろう。

しかし、チームとして更なるステップアップを目指すには今のスタイルでは限界が見えてくるのも時間の問題である。降格というトラウマを乗り越えて、欧州やリーガでの実績を次に活かす時期が来たのではないかと感じることがある。

近年のビジャレアルは、4-4-2のセットディフェンスでは流石のパフォーマンスを見せている。しかし、リスクを抱えた時、例えばローマ戦のように先制されて前に出ないといけない場合、守備の強度が怪しくなるのは改善されていない。

フォーメーションはスタート位置を示すものである。ポジションバランスを保つために大きく動かないことで守備のセットを強固にしてきたビジャレアル。逆SHによるボールサイドへの出張は殆ど無い。縦と横のポジションチェンジも無い。ビルドアップ時でもリスク回避をするようにロングボールを蹴ることも厭わない。GKをビルドアップに組み込むことも無い。これらの要素によって、ボールを失うエリアと配置バランスを考慮していることから守備のリターンは非常に大きい。同時に攻撃では失っているものが少なくない。どちらも数字に顕著に表れている。監督の仕事を判断する基準は結果である。だからこそ一概に否定することはできない。本コラムはフォーメーションという単なる数字をベースに、勝つことで芽生えてきた欲望と警鐘である。

 

マルセリーノが築き上げたビジャレアルの特徴はウノゼロ的チームだった。それは今も変わっていない。どれだけ相手のスコアを動かさないようにするか。その時間をどれだけ延ばせるか。そして先制点を奪い、逃げ切る。それらに集中しているチームである。

4-4-2はカルロ・アンチェロッティが一番バランスの良いフォーメーションだと述べている。各ポジションの位置関係がバランス良くゾーンディフェンスで対応できるためである。しかし、ボール循環においては難がある。幅を取る際のサポートの問題もある。中央に人数を割いていない布陣であり、サイドにおけるSHのポジションバランスとボール運びにおいて幅を取る際にはSBが高い位置を取る必要がある。

図はビジャレアルが押し込んだ時のもの。ビクトル・ルイスと右CBとSBで相手2トップを動かして、2トップ脇にブルーノを起点に左サイドで三角形を作ることでボール保持。相手CHが食い付けば、CH-CH間が空いた際にブルーノからFWへ縦パスを配球することも出来る。逆サイドへの中継点として、トリゲロスを2トップ間から1列目-2列目間に配置。サイドが詰まった時に、逆サイドへ展開するために使う。しかし、一発の展開というのは無いので相手のスライドが間に合うパターンが多い。相手SB裏にSHかSBを送り込んだ時には、ボールを失うエリアが深いのでネガティブトランジションはプレッシングで対応できる。しかし、サイドの三角形の位置が低い状況でボールを失うとリスクが大きい。

 

 

 

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さて、以下からはビジャレアルが孕んでいるリスクについて記していく。

定位置守備では問題があまり浮上しなくとも、トランジションに課題を抱えているのが現状だ。ビジャレアルの守備が強固ということもあって、相手がそのような速い展開に誘導しているという事実もあるのだが、ポジティブトランジション・ネガティブトランジションのどちらにも問題が発生している。

中央ゾーンのネガティブトランジションは、エスクリバ政権になってトリゲロスがより高い位置でチャンスメイクに絡む機会が増えていることから如実に浮かび上がった。トリゲロスはDMFでありながら時にはトップ下やFWの位置に入ったりしている。エスクリバもトリゲロスの狭いスペースで活動できて、攻撃を演出できるパサーとして意識しており、高い位置で攻撃に絡ませた方がゴールに近くなると考えている。しかし、それが中央を管理するブルーノ・ソリアーノの負担になっている。ブルーノ・ソリアーノの守備負担問題だ。32歳のブルーノはピボーテの選手であり、チームの骨格としてどこまでパフォーマンスを今後維持できるのか計算が難しくなっていくはずである。ボールを失った際に、相手をペナルティエリア内まで押し込んでいれば、ハーフスペースなどの相手のポジティブトランジションに必要な場所を予測で抑えておけるが、それ以上の高さの場合はトリゲロスのプレッシングが剥がされた後、トリゲロス―ブルーノ間の中央ゾーンを一度使われてからSB裏を突かれるとなると、トランジションに問題を抱えているのでSB裏を管理しきれない。そのSB裏をカバーするCB陣も右サイドのムサッキオならまだしも、左サイドのビクトル・ルイスは無理が利くチャレンジが出来る選手ではない。そのことからカバー範囲のバランスが際どくなっている。

マルセリーノ政権よりも相手ブロックの中で活動するSHの自由度は高くなっている(ロベルト・ソリアーノジョナタン・ドス・サントスがその恩恵を授かっている)が、守備時の中央圧縮に伴う相手SBへのチェックの距離が難しい。SHが守備に忙殺されることも珍しくない。DFを中央にセットして、サイドに引っ張られたくないビジャレアル。SBの迎撃は望んでいない。ペナルティエリア幅内のSBがサイドに引きずり出されたらCBがスライドでサイドに出されるためである。より一層SHの守備貢献は必須になる。よって、相手に押し込まれる程にポジティブトランジション時にSHのスタート位置が低くなる。カウンターの枚数が少ないとカウンターに移り難い現象だ。SHをカウンターの起点に使いたいビジャレアルからすると、SHが自陣深くまで引っ張られるのは厳しい。いくら中央でトリゲロスやジョナタンがポジティブトランジション時に活動できるといっても、そのスタート位置のロスはカウンターに影響する。

相手がボール保持時に底変化による3バック化でのハーフスペースレーンを使うドライブによって、ビジャレアルのSHを釣り出してから横幅を取る味方SBを浮かせて時間を与えるプレーは構造的に止めるのは無理である。相手のSBが運べるタイプだと侵入されていく。そこから崩されていくが、どれだけ耐えられるか。縦圧縮を選んでいるビジャレアルとしては仕方ない現象であるが、SHの守備忙殺によって前述のことが循環している。

また、4-4-2対4-4-2ではポジション的優位が作れないことも大きい。リーガの大半のチームも守備ブロックは4-4-2である。ポゼッションへの拘りを捨てた近年のビジャレアルであるが、細部にはビジャレアルらしさ溢れるパスワークがあるから相手を外せることも多い。しかし、定位置攻撃時にポジションチェンジは無いので相手にとっては守備の基準がクリアな状況が続くため、そもそもシュートチャンスが少ない。だから、ゴール数も増えない。相手のスライドによってサイドが詰まった際に、高い位置を取っているSBのサポート位置のブルーノ・ソリアーノでやり直すことが出来るが、相手のポジションバランスを崩すのは高い精度が求められる。そういうことから、サイドアタック時にはSBのオーバーラップが必要不可欠だ。絡まないと攻撃の厚みが作れない。そのSB裏をCBやブルーノ・ソリアーノでカバーするのが厳しい場面も上記のように目立つ。

 

 

 

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また、世界でトレンドになりつつある3-1-4-2との相性の悪さがある。ビジャレアルがその衝撃を体験したのはセビージャとの試合である。ポジション的優位と2トップ脇の有効活用によって、結果はドローでも完膚なきまで叩かれた試合内容だった。2トップ脇を誰がケアするのかという問題は永遠に付き纏うだろう。元々、ビジャレアルはこの近年、相手2CB+1CHによる底変化=3バック化に対して、明確な対応を取ることが無かった。ビルドアップの定番化に際して、最初から3バックの相手に対してSHが出ると相手WBへのパスコースが空くようになる。そこで否応が無くSBで迎撃に出ると、ハーフスペースが空く。CBがスライドすれば、CB-CB間への突入を許す。そこを埋めると、エリア内の配置バランスが悪くなる。リーガのSBはサイズが無いのでファーを狙われると苦しいという状況が出来上がる。

サイドを空けたくないなら、2トップ自身に走って貰うしか無いのかとなるとカウンター時のガソリン切れとポジションバランスが恐い。ファーストライン突破が簡単だと後ろの負担が大きくなるので、ある程度は粘って貰うとしてもそれ自体のバランスも難しい。

 

改めて勝利しているチームの監督に言うのも可笑しな話であるが、エスクリバの不幸は動くほどの時間が無かったに尽きる。

本来、彼が志向しているのは4-4-2ではなくて4-3-3だろう。それはレアル・マドリー戦での仕込み方を見れば明白だ。マドリーに敗れはしたものの、ビジャレアルが披露したフットボールは特別であった。しかし、エスクリバの不幸は続く。4-3-3をやるにしても駒が足りないのである。ビジャレアルが抱えるFWの枚数はそもそも2トップを前提にしている。これはエスクリバの意向よりも前任者の要望である。その多くのFWは2トップとしての2枚の関係性が見受けられないことが多く、2トップとしては機能しているとは言い難いのが今季の特徴だ。怪我人も定期的に出ていることから、依然として完全にマッチしている組み合わせの模索中であることも大きい。4-4-2を前提に選手を獲得していることはFWの枚数で分かるように、4-3-3をやるにはIHの枚数が当然足りない。3CHを担えるのは、ブルーノ・ソリアーノ、トリゲロス、ジョナタン・ドス・サントス、ロドリのみ。ロドリは機動力の面で計算が難しいので、4-3-3をするにしてもIHでは無理が多く、ピボーテにしてはボールを引き出す能力と配球能力はブルーノ・ソリアーノに遠く及ばない。つまり、実質3CHの代替は居ないということになる。これではアドリアン・ロペスがいくら器用で左右のWGを担うことが出来て、WGの枚数の目処が立っても無茶な話である。

エスクリバとの契約は今シーズン限りである。ベリッソといった噂が出てきているが、仮に続投という判断が下されば、来季こそは彼の志向しているフットボールが観られることだろう。それが結果に繋がるか分からないが、4-4-2でのバランスも年々厳しくなっているのも事実である。このまま緩やかに停滞していくのかどうかは分からない。ただ、変化が必要な時期はもう目前だ。その時に、ビジャレアルがどのような判断を下すのか。不安と期待を抱きながら見届けたい。