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ビエルサ後 マティアス・アルメイダ編-CDグアダラハラ分析

勝手に連動企画!第二弾。フットボリスタ2017年6月号のビエルサの弟子特集記事からインスピレーションを受けて、アルゼンチン新世代監督をチェックしてみようという企画記事。ビエルサ以降の新世代監督紹介記事の具体的な内容が気になる方は是非とも購入を検討して下さい。

前回のマルセロ・ガジャルド編に続いて(ロマン・イウチ氏曰く「ガジャルドはプレッシングと縦の展開はビエルサの影響を受けている」)、今回はマティアス・アルメイダのチームを今季の数試合から分析してみました。

メキシコリーグを真面目に観るのは初めて。RBライプツィヒのストラテジーアドバイザーのヘルムート・グロースが、「(戦術的に)アルゼンチン、チリ、メキシコでは驚くべき発想にたびたび遭遇する」と述べていたので、期待は大きかったわけですが。

 

グアダラハラの攻守の特徴】

攻撃時4231

守備時 前プレ4231→撤退442

 

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前プレはマンツーマンDFでCBの縦スラは当たり前。ビエルサの影響大。メキシコのクラブチームを真面目に観たのは初でしたが、ラテンの香りがとても強い。普段、観ているリーガに似ている。

ビルドアップはGK込み。菱形化~ボールサイドの(非対称的)SBでバランスを取りながら、ワイドにボールを動かしていくコンセプト。底変化のCHは固定ではないのが特徴。相手の前プレに対しては、ペップの「ビルドアップは7対5に収斂する」の典型的モデルに落ち着く。CHは前プレ1列目突破~縦関係でボールサイドに1枚と中央に1枚配置よりも、どちらもボールサイド寄りで降りてきたトップ下と列調整もある。

常に逆SHは外張り。DF時には相手SBにSHが死ぬくらいデートだから、DF時そのままのMFラインのSHの場所がエアポケット化するからクロス~HS狙いは大変。あとは、どちらもCHがボールサイドに寄りすぎるので中央もCBの縦スラ頼み。その辺のアグレッシブさは南米的ケースをそのまま。

一方で、CBの横スラは曖昧。単純なロングボールはハッキリしているけど、縦スラよりも微妙で、あまりエリアから動かしたくない派閥。ポゼッション~ネガトラ~組織回復で、ポゼッション時のワイドのCBを絞らないといけないから。特に中央ゾーンにおいては、CHのボールサイド寄りポジショニングから、リスクはCB依存という一面もある。

 

ポジトラ~ポジショナルな組織回復~定位置攻撃準備は鍛えられているけど、ポジトラからの(単騎)スプリント込みの仕組みはアバウト。カウンター機会は前線へのアイデア任せ的要素が強い。SHが単独でどれだけドリブルで運べるか勝負。前の選手も抜けるよりもDFライン前でレシーブ派だから、追い越しの面が弱い。基本はボールを愛するポゼッション型のチームデザインで、クリアよりも低い位置からでも繋げるなら繋ぐ。

 

ビルドアップ時

ビルドアップの出口はサイド。トップ下は底変化ローテCHとの兼ね合いで、相手MFライン間~手前のスペースを意識したポジショニングはCHとの列調整(トップ下込みでのローテあり)~サイド

具体的には、GK+ワイド2CB +CH(CHは2枚間でローテ)+SB(ボールサイドは低めで逆サイドは高く)→サイドの数的優位(SH、トップ下、CH、SB)から、ビルドアップを破壊しようとする相手プレッシングを回避しながら、逆サイドの展開も込みで。

ライン間でトップ下がエントレリネアスで蹂躙するパターンではなく、そこへの縦パスはあまり見られず。それよりも、2列目前のスペース込みでのHS~サイドに掛けて人を集めて展開。ただ、逆サイドにはSBとSHが配置されているから、CBへのバックパスから含めて一発でということもあるのでワイドの展開がある。

 

【前プレマンツーマン→ゾーン内のマンツーマン】

前プレ以降のフェーズ(前プレはGKまで掛け続ける。CBと均衡状態を作り、GKは空けるようなプレスではなくて、早く蹴らせて回収したい狙い)で全部がマンツーマンDFというわけでもなく、ゾーン内でのマンマークで対処。マンツーマンDFでありながら、担当ゾーンを敷いているので一枚残しのカバーリング要素を捨てていない。でも、あくまでもエッセンスはマンツーマン的だから個々の責任の所在はハッキリと。

バルセロナ大学の実験結果によれば、(ペップ・バルサ以降に浸透した)5秒ルールに基づいて5秒以内にボールを奪い返したら、8~10秒費やしたケースよりも試合終了時のスタミナ消費を抑えることが出来るとのこと。さらに、ハイプレス+ショートカウンターのゲーゲンプレス的要素よりも、ボールを動かすポゼッション的であるから、ボールを回しつつ回復を図ることができる。後方だけでの体力回復のポゼッションにアンチェロッティは否定的だった記憶があるけども、このチームは両ワイド的であるから、相手横スライドの距離は長いのでそのまま当て嵌まるかは微妙。

 

【サイド攻撃の問題点とトランジションの問題点】

SBが高い位置に入る前はインサイド的ポジションを取るから、SHは外張り。レーンが被らないように+DFの視野を考慮。

それで、押し込んだ際にはSBが高い位置に入れば、SHがHSで相手SBを釣るから、SBCB間への裏抜けをCFがみたいな形は当然仕込まれているけど、そこで裏を取った後のサイドはまだしもエリアの枚数の掛け方が見えてこない。サイドチェンジからの場合なら話は別だけど。SHのHSでDFを釣ってから、フリック込みでのSBが追い越して相手SB裏を使う方がエリアの枚数と時間を確保できるから安定的。バイタルのトップ下、サイド流れ~HSのCF、ファーの逆SHと3枚を送れるから。

そして、被カウンター時のSB裏=CBの横スラ→ファーサイドが空くのは至上命題。特にCBの横スラは曖昧。それは前のDFのマンツーマンでハメ込んだ上でのデュエルに期待して時間を作り、組織回復の442撤退に持ち込みたいから。でも、撤退してもゾーン内でのマンマーク。綺麗な3ライン形成よりも、マンマークDF~組織回復(DFラインとMFラインの構築)のフェーズでの自軍よりも速い攻撃を受けた時の対応は大変。だからトランジション問題。ちなみに撤退時、逆SBはマンツーマンよりも絞り気味で遠い所は捨てるゾーンDFだけど、一列前のSHがSBに付ききるのも特徴。

ワイドな定位置攻撃~マンツーマンDF~組織回復の問題点が、今季のビエルサのリールそのままと同じように映るのですが、これは根深い問題です。

参考記事→おかえり、ビエルサ!リールの戦術分析

 

ポゼッションを高めることでダイナミズムを失っていることから、攻撃が詰まる要素との隣り合わせ的感覚が同居している節は色濃い。5レーン的でありながらも、攻撃のスイッチを入れた時のスピード感といった迫力不足と「どこからでも崩せる」感覚よりも、限定的な崩し(サイドチェンジ込みでのサイド限定)のニュアンス寄りなのがボールを支配していても閉塞的に映る。そういう意味で、CBのドライブ含む攻撃参加でHSレーンからの配球は、サイドへの枚数の掛け方的には良いのだけど、スピードアップの要素から離れてしまう側面として出現してしまうのがこのチームの特徴。流動的ではないポジショナルなレーン整理であるから、技術的な問題もあって渋滞してしまうような。狭い局面での技術的なコンビネーションよりも、最終的にはある程度の広さがある方が加速するから。それは選手の特性や技術によるもの。だから、同サイドからの崩しよりもサイドチェンジを使う。

 

【感想】

マルセロ・ガジャルドリーベル・プレートよりかは見慣れたチームスタイルだった。あれはとにかく縦に!深く!のチーム。こちらは横に!広く!のチーム。

フットボリスタによれば、マティアス・アルメイダマルセロ・ガジャルドビエルサを源流とするらしいけど、プレッシング以外は大きく異なる。その境界線となっているのは、ボールを愛するかどうかの違い。あとはスペースのコントロールもあるけど。だから、グアダラハラはリーガ好きの私からすれば見慣れた光景が広がっているというか。親しんだスタイルであったから、特別な違和感はさほど無かった。

それだけにリーガと比較すると、敢えて引き合いに出すならばパコ・へメスかもしれない。ベリッソも考えたけど、何だかシックリこない。ボールを愛するコンセプトは共通しているのに、それを言語化出来ないのが歯痒い。でも、一番近いかもしれないけど。システムが共通しているならば、より見えてきそうな気も。

一方で、サンパオリに近いようでそこまで近くないような気もする。マティアス・アルメイダグアダラハラのCBの配球力をそもそも信用していないスタイルなのかどうか。当初はサンパオリ同様の変遷というかリアリストに変貌する瞬間があったのかもしれないけど、それは観測できず。あのエリアでのボールの失い方は致命的だから分かる気もする。サンパオリのセビージャはナスリを信用していたように。でも、それと同じように2列目の突破~ネガトラの命題は付き纏うわけで。この攻撃時のズレがどのようなリスクを兼ねた効果を生じさせるのか。とある方が、「サンパオリはペップとビエルサの間くらいのイメージ」と言っていた。マティアス・アルメイダも、数試合観た限りではその辺りのイメージに入りそうなんだけど、浪漫が現実によって砕け散るかどうか。現実と向き合った結果が昇華になるかどうか。その時の対応はもっと深く追い続けないと見えないものです。