おおたまラジオ

しまいには世の中が真っ赤になった。

『GIANT KILLING』49巻 感想

政夫:『ジャイキリ』新刊を読んだんですよ。49巻。今、日本代表戦やっているんですよね。アジアカップ。で、49巻の内容はメインは中国戦で、監督のモデルがリッピなんです。

 

ろこ:懐かしい。

 

政夫:W杯優勝したイタリア人というプロフィールなんで、リッピなんですけど、リッピの手腕がどうのこうのとかいう話ではなくて、『ジャイキリ』49巻が描いているのは大きく言えば中国戦と、海外の代理人たちが日本戦を見に来ているという情報が作中で言及されるんですけど…僕はコンテクストの問題もあって凄い誤解を生みそうな発言になるかもしれないですけど、今の『ジャイキリ』は読んでて面白くないと思っていまして。基本的に『ジャイキリ』を一回売っているんですよ。十何巻まで持っていたものを。それを一回売ったんですよ。面白くないと思って。

 

ろこ:ほう。

 

政夫:偶々、その時に働いていたバイト先で『ジャイキリ』30巻を立ち読みをしていたら(笑)まさかの号泣するという。30巻は神なんですよね。

 

ろこ:よく話したな、それは。

 

政夫:よく話しているじゃないですか。30巻はマジで神だと。

僕はマンガのリテラシーが高い人間じゃないですし、アンテナとかも無い方だけど、『ジャイキリ』30巻は率直に言って神なんですよ。あらゆるスポーツ漫画の頂点の一角を占めているんじゃないかと思うくらい凄いことをやっていて、その30巻を読んでしまったがためにまた集め直したんですよ。

 

ろこ:(笑)

 

政夫:そっからの積み重ねで49巻まで買っているわけなんですけど、30巻で蓄えた『ジャイキリ』へのエネルギーが底をついてしまったわけですよ。

勿論、代表戦入る前に東京ダービー編がありまして。持田のダービーを見て、僕は『ジャイキリ』の中では持田が一番好きなので。

 

ろこ:はいはい。

 

政夫:(東京ダービー編)見せ方としていい感じかなと、勿論持田という存在感があったからこそ、今の代表戦の一つのテーマになっているんですよ。花森持田世代というのがキーになっていて。それが根底にありながらも、如何に代表として世代交代していき、新戦力を活性化していくかという最適解を模索することをグループステージでやっているんですよね。そこは正直、窪田と椿がピースとしてハマっていくのが目に見えているから全くそこに興味はなくて。

『ジャイキリ』ってそもそも達海という監督と、椿という選手側の目線のW主人公なんですよね。

 

ろこ:はー。

 

政夫:勿論、達海が主人公なんですけど、彼がジャイアント・キリングを成し遂げていくためには、実際に試合をしている選手たちが勝たないといけないのだから、誰がサクセスストーリーに乗っかっていくか、シンデレラボーイになっていくのかが椿なんですよ。それが達海とETUの勢いに乗っかって、昨シーズンまでサテライトだった選手が、もうA代表入りしているんですよ。まあ、アリエナイじゃないですか(笑)

 

ろこ:(笑)

 

政夫:そこに、日本代表戦にライド出来ている人は、椿のシンデレラストーリーを追い掛けるのが楽しい人だと思うんですよ(後は日本代表という『大きな物語』の中でのオールスター感)。僕は元々サッカー漫画そんな好きじゃない人間なので。サッカー漫画をあまり面白いと思わないんですよ。

 

ろこ:初耳。

 

政夫;スポーツ漫画なら野球漫画の方が読むんで。

 

ろこ:マジ?

 

政夫:マジです。野球漫画の方が漫画としての見せ方がバラエティ豊かで、サッカー漫画はどうしても1試合を描くには、大体『ジャイキリ』みたいなスタイルですよ、ボールを一個挟んだ上での対面の選手たち同士のドラマがある(『小さな物語』の乱立)というのが、一つの試合=大きなものの中で小さなドラマが点々とあるというのがサッカー漫画的で、あれがダルイんですよ。勿論、野球漫画は野球漫画でダルイところもあるんですけど(なぜダルイかは後述)。

『ジャイキリ』にしても大体弱小から始まっているスポーツ漫画は、どんどん強くなっていけば、メタ的に次の相手にも勝つんだろうなと思ってしまうわけですよね。

 

ろこ:だいぶね。

 

政夫:『ジャイキリ』はもうそれに乗っちゃっているから。あとはどうやってリーグ優勝するかどうか(見せ方として)でしょ。

見えちゃっているから。スポーツ漫画の欠点は、結果が見えやすいこと。

 

ろこ:なるほどね。

 

政夫:だから僕がスポーツ漫画に求める傑作の条件は、どっちが勝つかマジで分からないやつ。どっちがマジで勝つか分からない試合を描いたら、それは神ですよ。

例えば、今年僕は『ハイキュー!!』がマジで凄くて。

 

ろこ:聞いたことはある。

 

政夫:ちょっと『ハイキュー!!』はビビりましたね。ぶっ飛びました。

 

ろこ:どの辺が?

 

政夫:アニメで観たんですけど、どっちが勝つかマジで分からないし、本当に一試合観たような充実感と疲労感があるんですよ観終わった後に。

 

ろこ:入り込んでいるな(笑)

 

政夫:ライドしちゃっているんですよ。ライドするにはどっちが勝つか分からないのを引っ張ってくれないとライドできない。どうせ主人公側が勝つんだろうなと思って観てしまうと、当然ライドできないんですよ。これが長寿スポーツ漫画の欠点なんですよね。それを言うと、『ジャイキリ』はタイトル的に既にジャイキリじゃないじゃんみたいな(笑)

ただ、椿というピッチの主人公に目を向ければ、彼の歩んだ道はジャイキリなんですよ。その椿君がいかにA代表で輝くかが焦点になっている今は、僕は興味が無くて、だからこそ代表戦は全く面白くない。描き方もコミカルなんですけど、達海の二番煎じ感もありますし。キャラの造形というか…台詞回しは豊かなんですけど、性格の悪さや腹黒さをブランが出しても「達海的」で終わっちゃう感じ。デジャブ的で。

その中でいえば、清水の監督が熱血系で新しかったんですよね。古いんだけど新しいんですよ。『ジャイキリ』の中では。『ジャイキリ』の世界観の監督像は、みんなドライなのに、清水の監督は熱血系で体育会系の造形だから古いけど新しい。一周回って新しい形になっているんですけど…。

その辺の、興味を持続させていくためのもの(牽引力)は大変なんだろうなって。

それを、49巻が結構面白かったんですよね(笑)なんでかというと、リッピがどうのこうのじゃないんですよ。試合にガッツリとコミットした描き方をしていないんですよね。試合を通じてのメタメッセージを描こうとしているんですよ。

それが、チャイナマネーが参入している中国サッカー事情なんですよ。

 

ろこ:おお!

 

政夫:それと、アジアのマーケットを開拓しようとしているヨーロッパのクラブの代理人たちの話。

 

ろこ:面白そう、それ。

 

政夫:若い選手はなるべく早く海外に行った方がいいというブランのメッセージがあったり。代表戦なんですけど、描いていることは代表戦よりもメタレベルで一つ上の次元で、移籍市場やチャイナマネーなどの大きな次元(『大きな物語』)の話をしているんですよ。49巻は。

その辺の感覚が、今までの『ジャイキリ』の規模と比較すると大きな描かれ方がされている。ただ試合大好き!という人からすれば微妙な評価になるかもしれないけど、試合自体に興味が持てない人間からすると、そういう次元のデカい話(『大きな物語』の乱立)してくれる方が面白いんですよ(笑)

 

ろこ:あー。

 

政夫:リッピを引っ張ってきた中国サッカーはどうしたいのか(金で文化は買えないが、金がサッカー(界)を面白くしている事実)とか。中国サッカーの育成事情とか。チャイナマネーで引っ張って来るのは攻撃の選手ばっかで、それを守る選手は中国人ばかりだから守備のリーダーの不在(守備のお手本になる選手の有無)の話とか、そういう話を書いているんですよ。

 

ろこ:いいねいいね。

 

政夫:全然そっちの方が面白いなって思ってて。49巻はそういう話なので是非とも読んで欲しいなって。

 

ろこ:持田は出ないの?

 

政夫:出ないですね。

 

ろこ:持田のライバルの花森は上手いの?

 

政夫:上手いですね。48巻と49巻でやっているのは、花森の孤独です。花森・持田世代だったのに、持田不在の間、花森がそれを埋めて一人で世代を引っ張っていたのに、今回も持田がいないから花森が孤独なんですよ。その絶対的エースの孤独を今描いていますね。

 

ろこ:あー。それ面白そう。

 

政夫:その花森の孤独を癒すのが窪田と椿になるのがミエミエなんですよ(笑)

 

ろこ:そっか(笑)

 

政夫:そこは興味持てないですけど、花森君が幸せになればいいじゃないですか。

 

ろこ:雑(笑)

 

 ※11月に配信した音声を一部文字起こししたものです。

球漫画はそもそも野球自体が「間」のスポーツであり、日本人が好む国民的スポーツは大抵「間」のあるものが多いと言われている。野球しかり相撲も。それに比べて、「間」ではなくサッカーは連続性のスポーツであり、野球漫画はサッカー漫画などに代表される連続性のあるスポーツよりも漫画上の演出的な「止め」や「スピード感を出すためのコマ割り」やドラマの挿入が不自然ではないようにスムーズに移行できる点がある。

漫画的な「間」とそのスポーツ特有の「間」の妙なシンクロニシティによって、キャラのエピソード挿入や感情のメリハリが相乗効果的に表現できるのが野球漫画の強みだと思っている。

一方で、連続性のあるスポーツはスピード感があればあるほどに作中の時間経過と読者の体感時間のズレが起きやすくなる。その時間のズレをコマ割りでどれだけコントロールし、ピッチやコートの時間や空間を演出的に誇張できるか(誤魔化せるか)が大事だと思う。

 

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