おおたまラジオ

しまいには世の中が真っ赤になった。

ビエルサ後 マルセロ・ガジャルド編―リーベル・プレート分析

近年はリーガ・エスパニョーラという箱全体だけ集中的に追ってきたので、偏っていた中で情報のアップデートの要素が欠けていた。人間なのだから偏るのは当然なんですが。ペップのマンチェスター・シティはチラ見していたけど、それを痛感したのが昨季のサッリ・ナポリ。感動した。素晴らしかった。

以前は、カテゴライズするならリーガのみ「狭く深く」派だったけど、ナポリホッフェンハイムとかを観ると「なるべく広く」触れた方が良いと思わされた。勿論、その2チームは質的に別格なんだけど、そういったトレンドやらイノベーションみたいなのは起きていて、全体のリンク性を感じ取るためには「なるべく広く」と。でも、人間一人でどうこう出来る情報量ではないので、ある程度の割りきりは大事になるわけで。

千葉雅也は『勉強の哲学 来たるべきバカのために』において、「勉強は自己破壊である」と述べている。それが個人的にはサッリのナポリだった。コンセプトよりもクオリティにビックリし、破壊された。観たことのないチームを真面目に観てみようと思わされた要因である。

 

それで今回取り上げるのはマルセロ・ガジャルドリーベルプレート。ロマン・イウチ氏曰くビエルサの影響を受けているとのこと。昨季の試合含めてリーベルプレートの試合を観たので戦術的要素を纏める。だけど、これがコンスタントなものなのかは分からないので、詳しくはアルゼンチンサッカーファンに訊いて下さい。その辺りが「なるべく広い派」の弱い点なんだけど。

月刊フットボリスタ6月号45刊は「16-17を支配した5つの戦術トレンド」特集だった。その中で興味深かったのは、ビエルサの弟子たちの記事。そこでアルゼンチンの新世代監督5人について軽く書かれている。マティアス・アルメイダガブリエル・エインセマルセロ・ガジャルド、ネルソン・ビバス、ギジェルモ・バロスケロット

ビエルサの魂を継ぐ者たち」なんてフットボリスタのコピーを見たら試合を観たくなるのが性よ。ビエルサ最高だからね。

 

  

リーベルプレート

442(4312 or 4222)

ポジトラ時4411 最前線のCFは偽ピヴォ的要領のサイド流れで中央を空けて2列目以降の飛び出し用スペース 

最終ラインでのボール保持時、CBはワイドに位置取り、CH落としあるけど、GKは蹴っ飛ばす。

 

【4312の攻守の特徴と課題】

ボールサイドのプレッシングの掛け方→最終ライン込みでの縦スラ+1列目の守備に横スラで走って死んでよりもチェックする相手は固定気味なので、1stDFが決まっていない状況では2列目から兎のように飛び出す。IHが外の選手にプレスを掛けて、前のシャドーはバックパス狙いで残り気味。だから撤退時は綺麗な3ライン(442)よりもプレッシング時のカオスからポジトラを計算して、サイドをやや残しで442~433のような形。相手のサイドからの前進に対して、IHが飛び出したCH脇をSBが前に出てケアも。SBが空けたスペースはCBの横スラ処理。CB-CB間が空いたらCHが埋めるところまでセット。CHがバイタル捨ててミドルゾーンの攻防にダブルチーム化で潰すことも。すると、CH~最終ラインまでには相手がポジショニングされている状況で、最終ラインの各選手にはマンツーマンDFの要領の対応。南米の香りそのまま。

ロングボールなどの縦の展開はCFのサイド流れが基準で、そこに蹴っ飛ばして零れてもボールサイドの選手(IH)は下がり気味の位置取りを取っているからリバウンドや1stDFを狙える状況込み。逆のFWは絞ってダイアゴナル狙い。IHは前線が孤立しないようにバランスを取るためにポジショニングを上げる。CH周辺が空くので、IH裏は最終ラインからの補填的カバーで処理。そのために最終ラインが絞るので対角は空くし、相手2列目からの飛び出しには付き切れないので結構怪しい守備。

CBが飛び出して処理したのに前線に収まらず、跳ね返されてピンボール化した際にはもう一枚のCBがスペースを埋める必要があるが、そのCBも相手FWに付いているので、スペースよりも人優先状態。SBも迎撃として中盤プレスに加わっている時は広大なスペースがある。早くボールを前に送れば早く戻って来る論の従兄弟みたいな感じで、相手ボールとして戻って来るのもしばしば。

 

CBからロングボール→シャドーのHSレーン配置からサイドの選手(IH)とCFを裏抜け。その時は中央に絞り気味なので逆サイドは外張りではない。しかし、ビルドアップ時は外張り。SBが高い位置を取ればHSに移動。IHのエントレリネアス+SBの大外抜けはセット。オーバーラップで外を走るのはSBの仕事。横幅からサイド奥の役割はSBがメイン。

GK+2CB+CHの菱形化もあるけど、GKは基本的には蹴っ飛ばす傾向が強いので2CB保持時はワイドよりもペナ幅内位置取り。ロングボールが跳ね返された時のカウンターケアで。

機を見てはCBが持ち上がるパターンもある。その際にはCHが落ちて枚数確保。CHが落ちたら底のポジションが居なくなるので、IHが補完するのもセット。2IHは2トップ脇(ビルドアップ時)or2列目裏(ロングボールに対して)のバランスを取りつつ分業的。それはボールサイドか否かの違い。

定位置攻撃時に横幅として両SBを上げたら、2IHは相手2トップ脇。CHとFW一枚がやや落ちて(FWが縦関係)になって、ダブルトップ下をライン間に潜り込ませる。

 

 

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【4222の攻守の特徴と課題】

セット時はそのまま4222

中央閉鎖による密度によって、ボールゾーンでの数的優位でネガトラはプレッシング回収。相手ビルドアップ時の横幅SBには、4222セットでFWのプレスバックか2シャドーの横スラ。2シャドー間が空いたら、CHかFWが埋める。FWは動かしたくないからCHが優先的。その際のDFラインの連動も見逃せない。

 

 

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ポゼ時 2CB+CH

底のポジションにもう一枚のCH 両SBは横幅

両シャドーはボールサイドのHSともう一枚はトップ下

ボール保持時は、中盤省略化のサイド流れ~HSのFWへロングボール。中央の密度が高いので回収できそうな雰囲気はある。相手CHに対して2シャドーのダブルチームとかも。

ポゼ~相手撤退時

・サイドからの前進からSB+FW+1シャドーの旋回でSBCB間を狙いつつ、DFライン~バイタルのFW+1シャドーまでどのように演出しようか。

・ライン間のシャドーかFWへ縦パスを当ててから外のSBを空けてクロス。その時のエリア内枚数は2枚が目立つ。

・上の延長でポストができるFWでDFラインを食い付かせてから、シャドーかもう一枚のFWが裏にダイアゴナルランで一発狙いロングボール。

 

相手攻撃時

サイド奥を抉られた際にはCBを動かすことで処理。相手にバックパスからカットインでペナ角を入られた時に、サイドのケアとしての2シャドー(ボールサイドの)プレスバックも含めて緩い。サイドの速い展開に対して、人を中央に重点的に配置していることから相手のSB参加に付き切れない。サイドに出ることも多いので、CB-CB間のケアとバイタル埋めでCHを使い切るので、クロッサーに対して無防備なことも。中で跳ね返せば良いでしょ守備なんだけど怪しい。だから、速い展開(SB裏狙いの被カウンター時)にはCBとCHでの追い込みで潰しきれないといけない。また、相手を押し込んだ場合には2CHがリバウンドポジションを狙うので、CH間が空く。中央ゾーンを一枚で埋めきれないので、1枚のCBが出張。その場合の被カウンター時のDFラインは2枚しかないので、オーバーラップ込みでのファーの動きにはガラガラ。この辺のDFラインの特徴は前述の【4312】と同じ。

 

【感想】

マルセロ・ガジャルドリーベルプレートを観て思ったのは、一般的な南米のDFのイメージそのままをフル活用していること。特に前で潰すという点で。

ビエルサから影響を受けたものは「プレッシングと縦の展開」と触れ込み通りの内容。

サイドのプレッシングの掛け方(人への付き方)と最終ラインの縦スラ設計は強烈。既に書いたようにDFライン的には諸刃的要素もあるけど、DFのリソースを活かすならば当然の仕組みかもしれない。

手数を掛けてDFラインを崩すよりも、DFラインの手前で旋回によって、マークのズレを生じさせて空いたスペース(SB裏かSBCB間)に裏取り設計。ボールを愛する攻撃作りではない。早く攻撃出来れば越したことは無いといったダイレクトプレー優先。

今季のビエルサのリールを引き合いに出すとDFの仕組み(プレッシング~最終ラインは顕著)は類似している点はあったけど、ボール保持時が全く異なる。ポジショナルプレーよりも縦の展開に特化したのがマルセロ・ガジャルドの特徴のようで。今季のリールでいうと、アンジェ戦の前半の戦いのテンポがそのまま当て嵌まる。

とにかく攻撃の速さ重視のサッカー。ポジトラに力を入れつつ、手数を掛けないからロングボールは全然あり。手前の選手の降りる(釣る)動きとセットで。スローインも速攻的でトランジションの一環として使用していた。

トランジションゲーム化を引き起こすように縦の展開を続ける。相手もパウサといった要素は無く、空いているから攻めようぜの姿勢なので、結果的に縦の攻防の殴り合いになる。これが対リーベルプレートによるカオスなのか。もともとのアルゼンチンサッカーのリズムかは分かりませんが、攻守にペナ幅を意識しつつポジショナルな幅よりも奥行き連打といったところ。だから、カウンター返しもある。FW単体カウンターとして一本。ボールを低い位置から繋ぐよりも速く攻めることが出来るならそうしようかスタイル。

前での潰しによるズレの連動は怒涛といっていいくらいで、まさに雪崩れ込むようなもの。しかし、横幅フル活用のビルドアップからのサイドの枚数不足を仕掛ける(前述のDFの仕組みを逆手に取れる)相手と対峙したケースが気になりました。