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しまいには世の中が真っ赤になった。

フランスミステリ 感想メモ2

 

騙し絵 (創元推理文庫)

騙し絵 (創元推理文庫)

 

マルセル・ラントーム『騙し絵』を読む。バカミスというか無茶すぎる不可能犯罪ミステリです。トリッキーに精を出し過ぎて、その回収が追い付かないほどファンタジックに脚色しすぎているような気がします。その代表例といえるでしょう。その自由奔放さによるフル回転と謎のツイストさえあれば本格ミステリという位置付けなのかもしれません。それがフェアかどうかというよりも、作品上におけるリアリティラインへの挑戦に近いのかも。本トリックに対して読者への蝶禅譲が挿入されていますが、これは無理難題でしょう。ダイヤ盗難時のタイムテーブルの書き方やサスペンスフルになるまでのストーリーテリングといい、どこか人を喰ったような記述の癖があります。解説に 「くそ真面目なイギリス人に比べると、犯罪小説においてフランス人がファンタジックな色合いをより評価することを示す」と書かれており、まさにこの通り。これ以上もこれ以下も違わない作品で、一読すれば絶対に忘れない密室トリックなのである意味オススメです。

 

赤い霧 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

赤い霧 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

ポール・アルテ『赤い霧』を読む。真相が見え見えなのが辛いところで、密室トリックも平凡。物語としての牽引力は弱いように見えるのですが、第1部と第2部の構成で上手く転がしています。内容紹介で肝心のネタを割っているのでただでさえ少ない見所が減るのが厳しいですが、フランスミステリとして観るならば、妙なトリッキーさもなく、かなり正統派な本格作品で浮いています。ノワールに流れる事無くサスペンスタッチに不可能犯罪を組み合わせしており、殊能センセーはポール・アルテを異端扱いしていたのを思い出しましたがその通りで。殊能センセ―は本作を本格ミステリ/ロマン・ノワールが最大の美点と評し、2部から描かれる「暴力とセックス」を「謎の提示」として表現している部分に着目していました。その暴力性を古今東西でもある某ネタと絡ませる辺りの手際。サプライズという点では弱くとも、抜かりない手腕は評されるべきでしょう。あまり面白くないけど。

 

ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)

ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)

 

ピエール・シニアック『ウサギ料理は殺しの味』を読む。バカミスの問題作。事実的因果関係を端的に表現している作品で、その無茶な論理を押し通す装置に笑いが止まりません。ブラックユーモアにセックスと暴力とエッセンスがてんこ盛りなのですが、このスケールまで仕掛ければ「ノープロブレムでしょ」と作者の顔がチラつきます。事件解決後の展開にも奇妙な味わいがあり、そこからの捻りも素直に感心してしまいます。でも、笑えるくらい無茶ですって。バカミス好きは読んで損のない作品です。しかし、個人的にはフランスミステリに対する殊能センセーの言葉がより刺さるようになりましたが。