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アントニイ・バークリー 感想メモ

 

ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)

ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)

 

 

アントニイ・バークリー『ジャンピング・ジェニイ』を読む。王道でガチガチの本格ミステリファンには到底受け入れられない超展開を巻き起こしてくれるシェリンガムがもう愛しい。被害者がクソだからといって、名探偵が「殺されて当たり前」と言って、「被害者を殺したからといって加害者の誰かが死刑になるのは勿体ない」という理由から偽装を働く辺り、もう捻くれまくった結果なのですが、自身の身から出た錆から殺人の嫌疑を掛けられるという名探偵らしからぬ展開が超好き。そこから頑張るシェリンガム。俺、どうなっちゃうの~という問題プロットですが、多重解決式を採用しており、読者に提示している真相から離れて、真面目に笑いを取りつつ真相をデザインしようと奔走する様は、 名探偵というよりも犯罪者のソレ。だからこそ読者たちが笑えるスタイルを取っているのですが、ここまで全てはバークリーの掌の上。ミステリとしても冗談小説としてもお見事。

アントニイ・バークリー『第二の銃声』を再読。やっぱり傑作。「童貞×恋愛×自白合戦×シェリンガム」で構成されている本作ですが、クリスティの某作を完全に補強する手法が素晴らしいです。作中に殺人劇を組み込むことで多重推理の舞台を整え、そこから自白合戦へと誘導する手捌きが見事としか言いようがありません。解決篇のパワーを如何なく発揮するまでは、所謂フリで童貞視点の長いロマンスを読ませられるのですが、そこで描かれていた人間関係に収束していき、謎の解体において意味のある展開に結びついていくのが自然となっています。フェアに則り、作中で騙しのテクニックを奮った後に、それ以上の計算高さを見せる構成は「バークリー、あんた天才か」と唸ります。

 

 

 

レイトン・コートの謎 世界探偵小説全集 36

レイトン・コートの謎 世界探偵小説全集 36

 

 

アントニイ・バークリー『レイトン・コートの謎』を読む。ここから迷えるアンチ名探偵シェリンガムが始まったのかと思うと感慨深いです。しかし、作品としてはフツーです。というかアレ。バークリー作品の分かり易い尖りはまだ鳴りを潜めていますが、シェリンガムのおしゃべりクソ野郎として誤謬を繰り出す様は愛らしいですし、それが事態の混迷というかドツボにハマっていく過程がバークリーの持つ喜劇性の味わいとしてユニークさをより演出しているように思えます。プリンスに纏わる場面なんかはミステリ史の財産といっても過言ではないでしょう。また、先鋭的な真相に関しては『第二の銃声』に繋がる一旦が見えたりと、作家バークリーを語る上でデビュー作という位置付け以上の価値があるように思えます。

 

 

 

アントニイ・バークリー『地下室の殺人』を読む。普通の本格ミステリです。それが不思議なことにバークリーにかかれば変化球に見えるのですが、それは錯覚でやっぱり普通です。シェリンガムの迷走も抑え目で、冒頭の死体発見シーンから身元不明な死体の地道な警察の捜査パートを経て、シェリンガムの作中作によって『誰が殺されたのか?』という謎の転換期を見せる演出のトリッキーさもありますが、そこまで全体がブレることなく、これまでの作風よりも実験的なものではありません。そうだからといって、シニカルさが完全に無い訳ではなく〝最後の一撃〟までの捜査過程を考慮すると、地味ながらも破壊力はありますし、そのハウも最早納得せざるを得ません。ある程度、バークリーの作品を読んでからの方が吉ですね。

 

最上階の殺人 (Shinjusha mystery)

最上階の殺人 (Shinjusha mystery)

 

 

アントニイ・バークリー『最上階の殺人』を読む。カー曰く「バークリー作品のベスト」という位置付けの本作。作品単体として見ても、シェリンガムシリーズ全体として見ても非常に興味深い作品であり、特にシリーズ全体としてならば『地下室の殺人』とは双子的。両作を比較すると、捜査過程や結末、そしてシェリンガムのポジションの移ろいに笑みが零れます。さて、作品としては良作です。シェリンガムの心情をたっぷりに描いており、そのためシェリンガムの暴走に拍車が掛かる手際になっているので、シンプルな真相が多重推理の〝オモチャ箱〟になっているところが素晴らしく、シェリンガムありきという先天的なものによる必然性があります。その暴走が爆発するラスト 、それまでに至る美人秘書との一筋縄でいかないロマンスは、クイーンのハリウッドに通じるような直情的でありながら翻弄的で「捻くれたバークリーが書いた」というのを念頭に置くと、より財産的に思えます。それでも、シニカルさは忘れないところが流石。