おおたまラジオ

しまいには世の中が真っ赤になった。

西加奈子『漁港の肉子ちゃん』感想 悲観主義があるからこそ肉子ちゃんは絶対的な物語として存在する

 

漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫)

漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫)

 

解説にあるように「自意識の対立」構造を如何に折り合いを付けていくのか、という西加奈子らしいタッチを、タイトルにある肉子ちゃんではなく、その「娘」としてのキクリン目線で描いており、思春期特有の未熟さそのままを炙り出している。

キクリンは肉子ちゃんに比べると、よく出来た子であることに違いないが、それでもやはり依然として「子」であることは身体的・心理的な未熟さがストレートに表現されている。

それらの身体性から滲み出る自意識を飲み込んで、乗り越えた上で身体的な成熟が結末で示されるのはまさに王道パターンといえるだろう。

本作は2011年の作品で、舞台のモデルは石巻(偶然一致したらしい)。

作品自体に震災の空気は感じられない程に楽観的であるにしても、否応が無く突き付けられた現実に対して、虚構に過ぎない作品が関わっていけるのかという作者としての問を西加奈子自身もあとがきでも記しているが、肉子ちゃんという存在感が「イマ・ココの瞬間の幸福」を体現しているので、どうしようもないほどに楽天的になる。

作品とリンクする時代性を鑑みても、底を抜けた肉子ちゃんの存在感が、震災への救済になると誇張するものでは決してない(そうなることは有り得ないというニュアンスはあとがきに記されている)し、では、この状況に対してどれだけ関わるのか/関われるのかと小説という表現行為のある種の限界も突き付けられたに違いないだろう。

しかし、確実に肉子ちゃんという存在性による「幸福感」はある。彼女の生き様は「イマ・ココ」だけを切り取ることでの幸福観を如実に浮かび上がらせている。

先行きも見えない当時の社会像において、「今が幸せならば幸せな気分に浸れる」切り取る瞬間と、その隙間を生活している感覚と「イマ・ココ」の実存性を考える上で、私は補助線として古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』を思い出した。

 

絶望の国の幸福な若者たち

絶望の国の幸福な若者たち

 

 

本作の連載中に震災があり、作中でも突然死や亡霊という形で日常に潜む死の情念をキクリンという子ども目線で切り取っている一方で、題名にある肉子ちゃんは「死からの反動的」に近いくらいに底を抜けた明るさで抜けちゃったまま描かれている。

それはまさに「生への全力肯定」という「イマ・ココ」の証明としてあるように、反対に日常で生きるということは、当たり前だが死(突然死や震災)も含まれているというのを子どもの眼差しから、楽天的に突き抜けている肉子ちゃんを相対的に置くことで、結果として、絶対的に肉子ちゃんという物語になっているのが素晴らしいところである。

だから、この作品のタイトルに「肉子ちゃん」があるのは必然だろう。

「イマ・ココ」で死ぬかもしれないし(日常での突然死=震災のように)、それでも、そこで生きていくしかないのだから、留まるための証としての絶対的な絆を、血の繋がっていない擬似親子の肉子ちゃんたちが、本当の親では与えられなかった「イマ・ココ」の「生」の肯定を全力で押すことの力強さは、一つの固定観念を乗り越えてしまった意味を与える。

こういう作品を描く西加奈子から、私は力が貰える。

あとがきで、震災のような出来事に対して、小説が持つポテンシャルについて西加奈子はおにぎり一個にも敵わないと記し、辛うじてあるであろう作家としての願いであり自負すらも打ち砕けたとあったが、相対的に、そして絶対的に「肉子ちゃん」の物語が存在する豊かさこそ、ある種の仄暗い悲観主義との対立と、それらの包括があって成立する共生関係だといえるのではないだろうか。

おおたまラジオ第8.5回 マンガを語るのって難しい/『ゆるキャン△』/# 平成ミステリベスト

これから定期的におおたまラジオ番外編をやっていきたいと思います。

こちらの番外編は文字起こしをしない(するまでもない)内容について語っていくということで、私自身のアウトプットの場を、特に喋りの向上を目指していく予定です。

いや、最近、ブログを書いていないなと思って。纏まって書く時間が確保できていないだけで、インプットとアウトプットはしないといけないなと思って。

#平成ミステリベスト、気になる人がいたらタグを漁ってみてください!素晴らしい企画だと思います(めっちゃ悩んだ)。

来月のおおたまラジオ本編は、一本のマンガについて語る回をひたすらやります。

課題図書は森田るい『我らコンタクティ』の予定です。

我らコンタクティ (アフタヌーンKC)

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鋼の錬金術師(1) (ガンガンコミックス)

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相対化していく途中で自分探しが止まらない 『ブリグズビー・ベア』を添えて

 

ろこ:こんばんは。第8回。モヤっとしますね。番外編を聴きましたよ。

futbolman.hatenablog.com

 

政夫:ありがとうございます。

 

ろこ:なんすか、鋭いパスというか、受け手を全く考えていない。

 

政夫:鋭いパス(笑)

番外編は、今の時代的に居場所を変えて戦った方が合理的なんじゃないのって。その場所は本当に正しいのですか?って。別にアレを意図して、『ブリグズビー・ベア』を観て下さいって言ったわけじゃないんですよ。

第7回で『スロウハイツの神様』をやったから。それで『ブリグズビー・ベア』を観たら運命的だなって思っちゃって(笑)内容おもいきり一緒じゃんみたいな。

futbolman.hatenablog.com

ろこ:勝手に運命を感じちゃったんですか。

 

政夫:運命を感じて、文脈できたなって。

 

ろこ:今月は俺の回なんですよね。基本的にテーマを持って主導で話そうと。

 

政夫:今までは二人で摺り寄せてアレコレ決めていたんですけど。今後は月毎に、3月はろこさん担当で、4月は僕で、5月はろこさんで、みたいな感じで。どこまでそれを続けていくかは分からないですけど、実験を兼ねて。

 

ろこ:分かり易いコーナーがあったら。

 

政夫:コーナー?

 

ろこ:お悩みコーナーとか。

 

政夫:冷静に聞いて欲しいんですけど、このラジオに仮にお悩み相談募って一通でも来たら、その人、もうヤバいでしょ(笑)

 

ろこ:(笑)

 

政夫:僕らの手には負えないですよ。ヤバいから(笑)

 

ろこ:例えば、の話ですよ。フリートークの感じなんですよね。『スロウハイツ』が終わった後に、テーマ探しの日々だったんですよ。

 

政夫:悩んでいましたね。3月どうしようって。

 

ろこ:ホンマ暗い日々でしたよ。世間はレミオロメンが流れていますよ。

 

3月9日

3月9日

 

 

政夫:昨日でしたね(笑)

 

ろこ:俺は相方から、まだですか、早くして下さい、一人で喋っちゃいますよと。

 

政夫:番外編は別にそういう意図だったわけじゃないんですけど。

 

ろこ:それは僕の受け手ですから、ごめんなさい(笑)

 

政夫:摺り寄せるとかないんですか(笑)お互いの解釈を。

 

ろこ:摺り寄せるためのメモを送ったじゃないですか。

 

政夫:度々ろこさんから、LINEで今考えていることをメモして送られてきたんですけど、所々怪文書化しているという(笑)

 

ろこ:それは、ええやんけ。で、モヤモヤしているというのを今回はスッキリしようという回。テーマを探すというのは、目的意識を持って生きるのは物凄くツラかったよ。

 

政夫:そうでしょうね。アンテナを高く張っていないといけない。いつも以上に張っていないといけない。

 

ろこ:お酒が楽しくなかったよね。仕事から帰るじゃないですか。ご飯を食べる前にビールとか飲む時、楽しくなかったよね。ツラかった。

 

政夫:お酒の味も濁ってしまったと(笑)

 

ろこ:そういう日々。どうしようラジオって浮かんできて。

 

政夫:いい傾向ですね(笑)日夜おおたまラジオに憑りつかれている状態。

 

ろこ:一個くらい雑談というか。

先週くらいかな。同僚と、仕事終わってスーパー銭湯でも行くって話になったのよ。そいつの趣味がお酒を飲むくらいだったのよ。面白そうだから、ラジオで話すかと思って、心の中でインタビュー形式的な。

 

政夫:スイッチが入ったんですね。

 

ろこ:そうそう。

毎日飲むの?とか、スタイルとかあるの?って。趣味がお酒って相当だから、こだわりを聞いたのよ。めっちゃ庶民の話なんだけど、そいつ曰く居酒屋のお酒は全く美味しくない。断然コンビニで売っている方が美味いと。

 

政夫:ストロング・ゼロの方が美味いと。

 

ろこ:そうそう。発泡酒でも、居酒屋の生ビールよりも全然美味いって。

 

政夫:マジっすか。

 

ろこ:基本的に安いやん。会社の下のコンビニでお酒を買って、飲みながら居酒屋を探すみたいなルーティンらしい。飲みながら歩くというか。それが楽しいんだけど。

 

政夫:画的にはヤバいですね(笑)

 

ろこ:そいつ的にはコストは最高だと。お店着いても、ビールは頼まない。ハイボールかワインを頼むと。

俺は基本的に宅飲みタイプだから。ちびちびと。

 

政夫:宅飲みでそこから手を出すというのが、ろこさんのスタイルということですか。

 

ろこ:俺はね(笑)ちびちびやりながら、風呂に入って。

 

政夫:一緒に?

 

ろこ:それは1人でもいいんだけど(笑)そいつもそれはめっちゃ共感してくれたのよ。泥酔までいかなく、気持ちのいい状態で風呂に入って、また飲み直すのが最高に良いと。

結局、高い店行くと他のコストがあるやん。立地代や人件費とか。

だから、そいつのやり方の歩きながら探すというのは発想に無かったのよ。めっちゃ庶民だけど。

俺は居酒屋は「場」を楽しむ時間というか、コミュニケーションの場だと思っていたんだよね。大概、同僚との飲み会なんて愚痴のオンパレードですよ。上司がクソだとか、この会社どうなってんねんとか。まあ生産的ではないよね。それを銭湯で盛り上がったという話なんだけど、どうすか?この時間の消費の仕方。

断ろうと思えば、断れるじゃないですか。

 

政夫:はい。

「場所を楽しむ」が先で、「お酒」が後なんだけど、愚痴を言いあうためにお酒が必要となるのは結局飲まれちゃっている感じですよね。「場所」が先にあるんだけど、僕はお酒を止めて、飲み会とか一切出なくなったなんですけど、改めてお酒を飲む、一応飲んでいた方だったんですけど、それでも居酒屋という場所は好きで。

それはろこさんと同じように「場所」的に好きだったんですよ。飲み会。お酒を無くして、あのコミュニケーションは多分、大人になった僕らは取れない。あれじゃないと取れなくなっている。固定観念があって。

昔の僕たちはお酒が無くても夜集まって遊べたじゃないみたいな。今は「お酒」という言い訳がないと集まれないんですよ。僕が今関わっている友達というのは、お酒以外のツールがあって、飲み会じゃないものを喫茶店やディナーで代替している。お酒は飲みたい人は勝手に飲めばいいけど。

でも、居酒屋ほど長居できる場所もない。平然と姿勢を崩しているのを許容できる場所でもあるじゃないですか、居酒屋って。もういい年したおっさんでも、醜態を晒しても、もちろん笑い者にはなっているんでしょうけど…

 

ろこ:だからね、スーパー銭湯がオススメよ。もっと凄いものを晒しているんだから。

 

政夫:何をですか?

 

ろこ:態度を意識する前に、ありのままの姿を晒しているんだから。

 

政夫:ありのままって何ですか?

 

ろこ:え、なんで(笑)なんで伝わらないの。

 

政夫:(笑)ぶらさげていると言いたいわけですね。

 

ろこ:凄いオススメ。

 

政夫:お酒無しでコミュニケーションを取れていたのに、なぜ取れなくなってしまったのかは気になるところで。本音をぶつけ合う場所として、お酒の席が用意されたりとかするじゃないですか。お酒を飲めば普段言えないことも言えるという建前的に、建前と本音を棲み分けているからこそお酒で引き出されるみたいな文化がある。僕はクソだなって思うんですけど。

お酒を介さないと本音が言えない時点でお前がダメだし、聴き手も相手にお酒を頼らせないと聞き出せないのも問題があると思っている。お酒を言い訳に使うなって本当に思うんですけど、お酒なくても夜遊べる場所って難しいなって。ダーツやビリヤードやカラオケがありますけど。スーパー銭湯は考えていなかったです。

 

ろこ:コミュニケーションのツールに溶け込んじゃっている。政夫君みたいに確固たる。

 

政夫:確固たる(笑)言い訳ですけどね。ことある毎に飲み会に顔を出していても、僕以外はお酒を飲んでいて、僕は飲んでいなかったら、帰る時に「いやー、お前も飲んで欲しかったよ」って言われますよ。

要するに物足りないんですよ。全員で飲んでいるという空気がないから。一人完全に素面の奴に観られている。だから空気が出来上がっていないんですよ。僕一人の存在で、それを壊しちゃっているんですよ。共同的に作り上げる空気を。その空気を作れなかったのを、僕が飲んでいなかったと指して「次は飲んでくれよ」と言った方が早いんですよ。

僕が飲めば解決する問題だと思っているから。いや、そうじゃないでしょって。盛り上げるのってお酒に頼らないとできないのって。夜の空気と昼の空気の違いだと思うんですけど。

 

ろこ:いいワードが出た。空気ね。

「空気」の研究 (文春文庫)

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さきの続きで、とある会社の後輩を飲みに誘ったのよ。そしたら、今日ジム行くからと言われて断られたのよね。

こいつ、やるなと思っちゃったんだよね。自意識ですよ。自意識拗らせてんのかなって。まあ、俺も拗らせているんだけど。

昔の俺には出来んことをサラッとやる強さというか。スマートさ。話したいのが、俺は断る時って、誘ってくれた方を配慮してしちゃう。推し量っちゃうんですよね。めちゃめちゃ感情的な人間というか、今後の付き合い方を、空気を読んじゃう。だからハッキリと行かないという奴のボーダーというか、行かない奴って思われたくなかったんだよね。

 

政夫:僕、今完全に行かない奴って思われていますよ(笑)

 

ろこ:だから『よりもい』的な話なんだけど、社会、社内の空気で、陰で正当化していいくのは陰湿な行為だから、それを寛容な社会だから、多様化の社会だからというだけの言い訳で許していいのかなってのはちょっとあるんだけど、俺みたいな奴って100点の回答をね。あいつは良い奴だ!みたいに。

だから断れる人って、強いのかなって思ったんですよね。ジム行く話。そいつは背伸びしていないんですよ。それがまずスマート。そういうのが出来なかった自分がもどかしいというか。

 

政夫:断る時の理由としての強度だと思うんですよ。

 

ろこ:ジム行くというのがね。

 

政夫:なんでもいいと思うんですけどね。例えば…帰ってアニメ観たいから、でもいいと思うんですよ。それをどこまで補強した言い方が出来るのかということ。隙が無いというか。隙が無いと、取りつく島も無いというのは別で。これ以上コイツに言っても無駄だなってのは両者ともにニュアンスとして似ているんだけど、隙が無いというのは僕が言った意味ではポジティブというか、相手に完全に不快にさせない言い回し、ニュアンスの問題ですよね。

 

ろこ:断れる人間って…同調圧力的なものがあるんですよね。やっぱり。一回断っちゃうと「もういいよ」みたいなことを思われてしまうという想いがあるんですよ。

 

政夫:そういう空気が出来てしまうという意味ですよね。

 

ろこ:そこから自由になりたいなって(笑)ラジオでもそういう話をしているんじゃんか。外に出ていく。番外編で、政夫君が色々と話していたじゃん。

 

政夫:居場所の話をしました。

 

ろこ:自分を変えるというのは、色んな意味があるんだけど、とある本を見付けたんですよ。平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』

 

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

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政夫:分人化じゃないですか(笑)

 

ろこ:これは用意したんだから話させてよ。さっきの断れない人間も、要は分けられていないのではって。自分という個人を。

平野さんが言っている「分人主義」的な話、これは自分探しの話になっていくと思うんだけど。

 

政夫:まず分人化が何かを説明しないと。要はペルソナですよね。人間はそれぞれペルソナを持っていて、その場その場で仮面を替えているよねっていう。

 

ろこ:ラジオの話でいくと、俺はどういうペルソナでいこうかなって。

 

政夫:ペルソナとかカッコつけていますけど、要はキャラですよね。キャラなんですよ。

 

ろこ:(笑)そうやけど。平野さん的には、日常にいくと自由になれるみたいな。

 

政夫:僕、結構、分人化って限界なんじゃないのって思っていて。その本自体も新しくないですけど、もう色んな人がインターネットのみならず、実際の場所でそれぞれのキャラを演じているわけですよ。アカウントも複数持っているのは当たり前だし。

そういう状況で、場所毎にキャラを変えることは当たり前で、その場に応じてキャラが応答しているという。求められているんです。それを引き受けている。

もちろん、それによってキャラと自分が衝突して、こんなの俺じゃないって自分探しになっちゃうんですよ。ありがちな。

でも、落合陽一みたいにある程度の方まで行っちゃうと、全部「落合陽一」でいけるんですよ。もちろん、彼の日常生活の「落合陽一」を知る術もないんですけど。ただある一定のところまでいっちゃった人たちは、スーパーマリオでいうスターを得ていて、どこでも同じキャラでいけるという。キャラが自分の実存と完全に一体化しているんですよね。

 

 

ろこ:めっちゃ楽そうよね。

 

政夫:そうです。でも、今はそれに近くなっている。

敢えて分人化という言葉を使いますけど、そのキャラというのも当たり前になってきているんですよ。みんな。そこで敢えて悩む必要性ってそんなに無くて。

でも分かるんです。ろこさんがなぜそこに屈託を抱いてしまっているのかというのも。

 

ろこ:(笑)

 

政夫:「える・ろこ」っていう名前はツイッターアカウントが発祥だから、「俺、ビエルサじゃないし」「奇人でもないし」みたいな(笑)

 

ろこ:奇人だったら断れるんですよ。

 

政夫:めちゃめちゃアンニュイだし、センシティブだし、ナイーヴだから(笑)全然奇人じゃないし。

名前の呪縛ですよね。名前からきたキャラというのが一面的に固定されてしまった。「える・ろこ」といったらビエルサを思い出す人もいますし、しかもろこさん自身がビエルサ好きだし、サッカー好きだし。繋がっているんですよね。レイヤーは接触しているんですよ。「える・ろこ」って名前と。

ただ、おおたまラジオに出ているろこさんはほぼサッカーの話をしていない。

 

ろこ:まあね(笑)

 

政夫:で、色んなコンテンツの話や僕らが面白いと思っている話をラジオに乗せているに過ぎないですよね。それは、僕とろこさんが普段通話している時の「素」の感じなんですよ。ろこさんにとっては、それも作り込んでいるかもしれないけど、僕にとってはツイッターでサッカーについてツイートしている「える・ろこ」というキャラとちょっと離れているんですよね。

 

ろこ:めっちゃ離れている。

 

政夫:むしろ「える・ろこ」という実存性を考えると、サッカーの方が本職なのに、通話で話している方が、「こっちのが素なんだろうな」って(笑)どちらかというと、作り込んでいるのはサッカーの方というイメージなんですよね。

 

ろこ:作り込みの自覚は無いけど、ここまでラジオをやってきて、その自覚はある。距離というか。だから今月ツラかったのよ。考えいてることと、ツイッターで言っていることと、距離が開き過ぎて。現在地ではないんだよね。

今までツイートしていた「える・ろこ」と比較して。おおたまラジオで7回喋って出来上がったであろうものが現在地だから。シンドカッタよね。

 

政夫:居場所の話だと思うんですよね。分人化が居場所の話だから。

 

ろこ:政夫君はそういうスタンスとして、ラジオを居場所にした方が俺の死に場所になるんじゃないかと…

 

政夫:重い。重すぎる。

 

ろこ:去年の終わりごろにそう言ってくれて、観る世界が変わっているんだよね。

 

政夫:言いましたね。昨年末に、ろこさんの寿命論と相まって死に場所を求めているんだったら…という話をしましたけど。

 

ろこ:『スロウハイツ』の回も殆ど俺が接続できていないというか。テーマに関しても、引き出しにしてもそうだし。要は文脈が無いと。そこに自分の関係性が無いから。だから、今回は結構考えたのよ。テーマを持って喋るとか。ラジオの話や空間の話もそうだけど、要は死に場所を探しているということは飛び出したわけですよね。

『よりもい』的にいうと。南極に行こうみたいな話で、南極に行って何をするのかは、ラジオの中身だと思うんですよね。今、おおたまをやっていることは。

 

 

政夫:死に場所云々は、南極どうこうよりも、一旦死にたいんだなって。

 

ろこ:(笑)

 

政夫:死んで、終わって、始まりたいんだなというつもりだったんですよ。

 

ろこ:区切りという意味ですか。

 

政夫:終われば、何か始まりますよ。

 

ろこ:始まるか?

 

政夫:冬が終われば、春が始まりますよ。

 

ろこ:季節みたいに言われても。

 

政夫:終わったら何か始まりますよ。脱皮という意味で。殻を破る。

 

ろこ:そんなポジティブな意味じゃないと思う。元に戻るという可能性もあるじゃないですか(笑)要は相対化できていない。外の世界と自分の世界で。

 

政夫:相対化は本当に必要で。

相対主義を高く評価すること自体が結構難しいですけど、なぜかといったらなんでもかんでも相対化してしまうと絶対的なものが無くなっちゃうから。相対主義って真実には近づけないんですよ。というのが絶対的にある。

グラデーション的に描けるんですけど、極端のゴールというのを突き抜けられないんですよ。相対主義の名の下では。という前提で、自分を相対化するのは大事で。自分と世界を、大きな括りでいえば。それをどう相対化させていくかというと、自分と世界を結ぶ何かに色々回路を繋ぐんですよ。回路を繋ぐことで、ここはこうだよねって風に回路が…

 

ろこ:回路は環境?

 

政夫:そうです。文脈や環境も。回路を持つには知的好奇心だったり、あとは自分が所属する環境から波及した何かだったり。その回路があることによって、色んな接続方法が生まれて、その数が多ければ多いほど相対化する機会が多くなるんですよ。

おおたまラジオ7.5回でチラッと書き起こした岡田斗司夫の本で「優秀な文化は相対化を促す」とあって、本当にその通りだなって思うんですよ。なんでもいいんですよ。別に。

それこそ、アカデミー賞最有力作品であろうが、深夜アニメであろうが。名も無いサークルの同人誌であろうが。そういう力があるんですよね、文化って。それが世界と自分を繋ぐ。

物語を通して、文化を通して、本来自分が知覚できないものを認知する。そこに、目の前にないものに対して想像力を働かせる機能を持つというか。だって、人間、考えていないことは考えられないんだから。そりゃ当たり前でしょ。見えていないものは見えていないんだから。それを想像力として、想像力をフックに掛けるには相対化せる文化が必要なんですよ。その回路の数だけ世界は色々あるよね、みたいな。居場所だったり。そういう話が、一応、話しきれていなかったですけど、おおたまラジオ7.5回や『スロウハイツの神様』や『ブリグズビー・ベア』だったり。

 

 

ろこ:良かったね。『ブリグズビー』の話をしますよ。

 

政夫:さっき観たらしいですね。どうでした?

 

ろこ:良かったね。優しい世界。家族の人も凄い優しい、良かったよね。政夫君、絶対好きやんって(笑)

 

政夫:絶対好きというか、『スロウハイツ』読んだらクルでしょって。『スロウハイツ』と同じですから。

 

ろこ:俺、最初ね…ネタバレあり?

 

政夫:アリですよ。

 

ろこ:出た、ストロングスタイル。最初、『ルーム』的な話だと思ったのよ。

 

 

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政夫:感想記事だと『ルーム』は絶対出てきます。あと『幸色のワンルーム』。

 

幸色のワンルーム(1) (ガンガンコミックスpixiv)

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ろこ:ちょっと社会的に扱うのが難しいネガティブなものから脱出する話だと思っていたのよね。蓋を開けてみれば…おーって。

 

政夫:すぐ脱出するみたいな(笑)

 

ろこ:脱出して新しい世界に、でも全然溶け込めないじゃん。

 

政夫:「新世界」ですね。

 

ろこ:疑似家族的なテーマはおおたまラジオで結構喋っているじゃん。どうしても『万引き家族』が過ぎってくるのよ。

なんで攫ってアニメを見せたのか?が気になるんだよね。テーマからはズレるんだけど。

 

政夫:疑似家族を形成した側の話ですね。犯罪者側の視点。そこは、もうビックリするくらいに偽物の両親がカットされていますよね。主人公は、もっとあいつらにどうこう言っていい権利があるのに、言ってもいいのに、問題は偽物の両親じゃなく本物の両親じゃなくて、「ブリグズビー・ベア」の続きをどうするんだよって(笑)

 

ろこ:「物語」の話なんだよね。

 

政夫:ろこさんが今言った視点は本当に面白くて。

なんで「ブリグズビー・ベア」を作って見せていたのか?という話は、僕一人では思い浮かばなかった視点というか。僕はやっぱり主人公のパッションで、好きなものがあるだけで人は救われるんだよ、生きていけるんだよという情動に目線がいっちゃうから。

 

ろこ:『ルーム』の話とちょっと繋がるんだけど、監禁から解放された親子の話。出たら、家族愛や親子愛にフォーカスされるのよ。親子の気持ちって。当事者と離れているから、母と子の話ってそこまで入れなかったんだよね。

その視点だから『万引き家族』も少しモヤっとしたんだけど、そこをリアリズムで批評していくのってなんか違うじゃない。もっと、政夫君が言った文脈で喋りたいというか、希望に満ち溢れているというか、好きという感情は根本的なものだから。

 

政夫:もっと表に出さないとダメなんですよ。観たいものは観たいって言わないとダメなんですよ。その素敵だなって思うのは、「ブリグズビー・ベア」は実際に無かった番組だったのが判明してショックを受けた後に、「どうやったら続きが見られるの?」とターンするじゃないですか。番組自体は偽物なんだけど、それに焦がれた思いはどうしようもないくらいに本物なんですよ。偽物とか超越しちゃうんですよ。やっぱり。

さっき、ろこさんが言った、偽物の両親はなぜ「ブリグズビー・ベア」を見せ続けたのか?というと、夢ですよね。作り自体は偽物だし、作った両親も偽物だけど、作り手の思いは本物なんですよ。それに込められたものは夢だと思うんですよね。両親たちが、子どもに見せる夢でもありますし、両親たちも見ていたい夢だったんですよ。醒めないで欲しかった夢なんですよ。

ブリグズビー・ベア」ってめっちゃシリーズあるじゃないですか。あの期間、主人公が監禁されていた25年間、ずっと疑似家族を形成していたかった夢だと思うんです。ずっとアレが続くと思っていたのかは分からないですけど。

 

ろこ:相当バレナイように工夫していたぽいし。

 

政夫:相当ですよ(笑)

 

ろこ:また戻るやん。住んでたところに。あのシーンめっちゃ好き。元におった場所に戻るという描写は『万引き家族』でも『ルーム』でもあるんだけど、もう鉄板よね。

 

政夫:あのシーンはもう、戻れない場所として時の歩みを感じさせますよね。否応が無く。確実に、その近くに住んでいた「ブリグズビー・ベア」に出演していた女の子も普通に年を取っていて、普通に働いているっていう。これがセットですよね。

 

ろこ:ノスタルジーの話になるんだけど、やっぱり戻るんだよね。どう、政夫君は戻りたいってある。

 

政夫:高校時代が一番面白かったから…ただ高校を離れた後でも、彼らと楽しく付き合いが続いている今も悪くないので。

 

ろこ:普遍的だと思うんだよね。

 

政夫:主人公にとっては、あれが世界なんですよね。あの家が。あの家と「ブリグズビー・ベア」が世界なんですよ。それが偽物だと分かっていても、やっぱり戻っちゃう。だって、俺の胸に燻ぶっているこの気持ちは本物だからよ!みたいな。

 

ろこ:確認作業。

 

政夫:一種の葬式なんですよね。主人公の中での通過儀礼になっているんですよ。あれを踏まえた上で進まないといけないんです。特に主人公自身は、監禁されていたことに対して輝き切れなかった青春時代にあれこれとか、偽物の両親への不満よりも「ブリグズビー・ベア」だから(笑)そこはカットされちゃっているんですけど、主人公の獲得しきれなかった内面であったり、体験だったり。

でも、「ブリグズビー・ベア」を作るという行為自体は、彼にとって遅れてやってきた青春であり、間違いなくあの世界、偽物の両親と過ごしていたら得られなかった(能動的な)体験ですよね。爆破シーンとか。警察に捕まったりとか(笑)

 

ろこ:キャンプのシーンは良かった。

 

政夫:ヤバいですよね。青春じゃん。

 

ろこ:ちょっと恋愛を挿んでくるやん。勘違いしてイタイ話になるんだけど、俺もこういう時もあったのかなって(笑)

 

政夫:相対化して。

 

ろこ:映画を作って、トイレに閉じこもるシーンも。想像だけど、どう受け取られちゃうかなって。

 

政夫:あれは作り手の代弁ですよね。自分が青春の1ページを捧げて作った、人生のヒトカケラ、むしろ主人公にとっては25年分の「ブリグズビー・ベア」に捧げた彼の人生、自分の世界が他人に受け入れられるのかどうかというのは非常に恐いことだし。好きなものを、相手に好きだと伝えるのは難しいという話に繋がると思うんですよ。

自分の好きなものを自信を持って、これ好きなんだよねって言えるかどうか。それで評価されちゃうから。君のセンスってこういう感じなんだって。常にチェックが入るから。好きなものを好きと言い難いんですよ、やっぱり。

でも、言わないとダメなんです。それを突き抜けちゃえば、迎い容れてくれる世界がある。それが、彼が作った映画に対する反応ですよね。

 

ろこ:そこまでの階段というか距離だよね。俺はめちゃめちゃ遠い。

 

政夫:もっと好きって言わないとダメですよ。

 

ろこ:政夫君はラジオ、話すことがめちゃめちゃ好きやん。

 

政夫:毎日おおたまラジオやりたいって言っていますからね。

 

ろこ:言っているね。

 

政夫:言っていない(笑)ノイローゼになるわ。話すことが好きなくらいに、人の話を聴くのも好きですけどね。

 

ろこ:俺はそっちよ。俺、多分一番聞き直しているわ。ポッドキャストに上げて。

 

政夫:ファンじゃん(笑)

 

ろこ:ファンなのよ(笑)今回考えたのは、どうラジオをやって、キャラとか考えている段階で自意識だから…

 

政夫:そうなんですよ。でも、キャラって付いて回るというか。固まった環境にいれば、〇〇君はこういうキャラだからって決まっている方が楽な部分もある。面倒を避けられるんですよ。他人がどう思っていようが、固定観念化していれば、既成事実になっているし。当人の気持ちは置いといているから、だからキャラの問題は付いて回るんですけど。

 

ろこ:普段から、「える・ろこ」として生きていたら、まず排除される側(笑)

 

政夫:(笑)

 

ろこ:サッカーを観ていて、ポジショナルがどうこう言っていたら嫌やん。絶対受け付けない人が多いから。そこはちゃんと気配っているから難しいんだけど、政夫君のオファー的には、ちゃんとラジオと向き合って欲しいってあるじゃないですか。

 

政夫:向き合って欲しいというか、二人でユニゾン的な面白さを出したいよねって。

 

ろこ:余白なんかな。

 

政夫:伸び代ですね。

 

ろこ:(笑)だから、今回のテーマ的にはシンドカッタよねって。

 

政夫:テーマ探しは、次に僕が担当するからぼんやりと考えつつの今回のラジオなんですけど、色々考えますよね。よく二人で話しているのは、おおたまラジオにストーリーを作っていきたいとか文脈をどう組み込んでいくのかと。例えば、おおたまラジオを機に『スロウハイツ』を読んだ人がいて、今回で『ブリグズビー・ベア』を観れば、おおたまラジオと同様に文脈が作られていくし、それはまず何よりも、僕もそうだったし、ろこさんも今日観て、そこがなんとなく接続されたと思うんですよね。

 

ろこ:感覚よね。

 

政夫:そこの感覚ってラジオをやっていないと生まれていないもの。そういうのをもっと増やしていく、回路や引き出しに繋がるんですけど。どう相対化させていくのかという話だと思うんですよね。これを話すことで、どのような効果が得られるのかって考えるじゃないですか。これを題材にすることと、その題材から読み解いて目的地は何なのかって設定するからデザインが描けるわけじゃないですか。それが四苦八苦するんですよね。

僕が言っているのは、デザインを書くんだけど、ユニゾンであらぬ方向に飛んだ方が面白い可能性もあるよねっていう。それが面白さだと思うんですよね。予定調和を崩すというか。

僕はテーマ探しは、次を担当する側ですが、遊びのあるテーマにしたい。脱線しても、最終的には大元に帰ってこれるような。さっき、ツイッターで通知が来て、『ボヘミアン・ラプソディ』回が、そこそこ褒められていたわけなんですけど、あれは『ボヘミアン・ラプソディ』の感想がメインのようで、メインじゃないじゃないですか(笑)

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批評の話があったり、『グリッドマン』の話が最後にくっ付いていたりとか。『グリッドマン』の新条アカネちゃんと、フレディ・マーキュリーの生き方の相対化を話して、あれはもちろん厳密には繋がっていないんですよ。繋がっているようにみせた喋り方をしているだけで、厳密には繋がっていないし。

 

ろこ:そこは、俺は繋がっていると錯覚させられた。

 

政夫:気を付けた方がいいですよ、振り込め詐欺とか(笑)あれは、厳密よりも大枠として話しているだけなので。

 

ろこ:政夫君と出会っていて良かったと思ったのよ、今回。危ないじゃないですか。騙されて、変なオンラインサロンに入っちゃって、変な宗教に課金して。

 

政夫:パズドラね(笑)

 

ろこ:所属した気になって…そこ、めっちゃ危ないじゃないですか。前、「何者」問題を話したじゃんか。『桐島』もそうだけど。めちゃめちゃ危ない橋を渡るところだったのを、おおたまラジオによって救われたという話なんだけど。

 

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政夫:ファンじゃん(笑)

 

ろこ:良かったなって。

 

政夫:良い話だなー。

 

ろこ:走り出して良かったって思うんですよ。政夫君が、分かる人に分かればいいスタンスって、ある種、おおたまのストーリーになってきていると思うし。そこで、俺が四苦八苦していくというのも、文脈になってきているのかなって。

第8回で、発展したかなって思ったのよね。

 

政夫:自分探し。

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分かる人だけに分かればいいというスタンスは、あんまり変わっていないですけど、だけどニッチのままでいいのかという部分があって。ニッチはニッチでしかないのか。ニッチはマスになり得ないのか。マスへの憧れがないわけでもないし。

 

ろこ:そんなに感じないけどな(笑)

 

政夫:浦和レッズの記事がバズったりもあったんで。

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あれは本当に、ニッチを描いているつもりはなくて、自分の体験記ってバズるんですよね。個人の体験なんだけど、これ分かるわって感じで刺さり易いんですよね。小難しい作品語りって、やっぱり小難しいんですよね。作品語りにかこつけた自分語りの方が刺さるのもよく分かるんですよ。それも普遍的だから。

かといって、作品語りをしたいのに、それに社会的な気分だとか、その時の情勢を乗っけて偉い知識人の言葉を引用して偉い文化人気取りのように批評する、あたかも自分が何者かになったかのように批評するものって、果たしてそれは批評という言葉の力なのかって考えたりとか。


ろこ:俺は全然そこに価値は無いと思う。本質から外れていると思うけどな。


政夫:そういう風になり易いんですよね。かといって、ある作品を通して深堀していった時に、この作品はこの時代に生まれたからこそ、この時代の気分になっているのも見えなくもない。確かにあるんですよ。そういう匂いというものが。その匂いが社会との接合点として見出されていくのもある。そこで、自分が持っている当初のデザインと、上手く(作品を語るために)掘っていた時に、これとこれ、社会的なものと結びつくのでは?と作品を通して大きなことを語れるのでは、みたいな。

で、大きく語れば、自分も何か大きく語った気になるから。で、厳密にやると破綻しちゃうのもあって。どこまで自説を撤回せずに、強度を保ったまま、あるいは(覚悟として)引き返せるのかみたいな。


ろこ:それはラジオをやっているからこそ、時代との整合性というか着地点を考えているのは、俺は揺さぶられるというかね。


政夫:単純に批評、批評家の中で2010年代にプレイヤーが存在しなかったのが大きいんですよね。2010年代に新しく出てきた批評家っていないんですよ。振り返ってみると。批評というのが潰えてしまったのか。衰退してしまったのかという話になるんですけど。


ろこ:機能しないという話は『日本代表とMr.Children』で。

 

日本代表とMr.Children

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政夫:通り過ぎちゃうんですよね。みんなと共有しているものが描けなくなっちゃったから。クラスタ化の話と繋がると思うんですけど、なんでこの作品がきちんと批評されていないのか、という作品はめちゃめちゃある。それに対するプレイヤーの数がめちゃめちゃ足りない。プレイヤー不足はどの業界もだと思いますけど。これからメディアを作る人、プラットフォーマーになるかとなれない人の話になっていきますが。


ろこ:誰かが言っていたんだけど、最近の音楽業界は「クリティカルvsプラットフォーム」になっているって。これ、大きい話だからカットでいいのだけど。そろそろ終わりますか。


政夫:変な終わり方ですよ?


ろこ:だって批評の話をすると、「日本代表」の話になっちゃうでしょ。


政夫:(笑)批評 代表。


ろこ:お?


政夫:韻を踏みましたよ。


ろこ:そっち路線もいけるのか…


政夫:いけないです(笑)

ただ、ライムスター宇多丸師匠が、Eテレの対談番組で、「言文一致って正確にはできていないんじゃないか」という話をしていて。この人はやっぱり面白いことを言うなって思ったんですけど。話し言葉と書き言葉って全然違うじゃないですか。やっぱり書き言葉の方が尊重されている。話し言葉が軽視されている。

 

お笑い芸人の言語学: テレビから読み解く「ことば」の空間

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ろこ:テキスト時代。


政夫:やっぱり、書ける方がエリートというイメージがあるんですよ。

でも、書き言葉の限界もあると思うんですよね。だから、おおたまラジオは文字起こしした時は話し言葉なんですけど、『スロウハイツ』回とかは書き言葉で文字起こししても良かった…ブログ記事化しても良かったと思うんですよね。僕のレジュメ10枚+αのメモ用紙を記事にしちゃってもアリだったと思うんですよ。

でも、敢えて話し言葉、ラジオという媒体で話してそれを文字起こしするというのは、僕が本来それを書き言葉で書いていたら届くであろう層がいたとして、話し言葉にした方が「層」以外に届くと思ったんです。

宇多丸師匠が言っていたのは、論文には書き方のルールがあるんだけど、書き言葉で書いた内容と話し言葉で言っている内容はほぼ一緒なのに…って話をしていたんですよ。この論文と俺の言っていること同じなんだけど。なんで論文の方が格調高く思われてんのみたいな。話し言葉の優位性が、書き言葉と相対的にみたときにまだ確保できていない。特にテキストにしてしまうと、なんで書き言葉じゃないのって。

人文学や社会学の本で、話し言葉調で書かれている本って結構あるんですよ。意図的に。


ろこ:言語化できていないのは思考が足りていないという話になるんだけど、順番的に最近、AIやネットで考えることをあまりしなくなったと。脳をあまり使っていないと。人は言葉に対してのみ、思考するみたいな記事を読んだんだけど。

俺は言葉にすることで安心するのよ。喋って、安心して。でも書くって、フワフワするというか。


政夫:それなんです。言文一致の問題で、話し言葉だとスラスラいけるのに書き言葉だとクっと何故なるのか。僕はそこが面白いところだと思うんですけど。だから書き言葉ってのはエリートやインテリだったり、優位性が確保されているんだろうなって。

でも、みんな、ツイッター話し言葉調でみんな書いているじゃないですか。「呟き」ってのは。自己完結したものをただ呟いている。だから今、凄く色んな人間が(話し言葉からアプローチした上での)書き言葉に身を寄せているのではと思いますけど。
考えられなくなった点が、批評が機能しなくなった点かと。それは作品を読み取るリテラシーに近いというか。

なんで、あれが書かれていないんだろう。なんで、これについて言及していないんだろうって。それは、書き手は知っているんですよ。


ろこ:ビジネスですよ。有料か無料かの境ですよ。


政夫:それ、noteじゃないですか(笑)

なんで、これ書いていないんだろうって思うのは、知らないから書いていないわけじゃないんですよ。必ずしも。知っていても、書いていないことってあるんですよ。それで、なんで書かれなかったんだろうなっての方が寧ろ大事ですよ。そこも読み取ることがリテラシーなんで。それは、まあ難しいだろうなって。考えなくなっている世の中に対して、批評という言説は機能しないのも仕方ないのかなって。


ろこ:(敢えての)余白を設定しているコンテンツって凄いことだと思うんだよね。これも大きい話になるな。


政夫:余白ですか。


ろこ:そこ、大事じゃない。


政夫:ま、おおたまラジオも余白を作っていきたいですよね、と。


ろこ:ということで、ね(笑)  

 

※この記事は3月に配信した音源を一部文字起こししたものです

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