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しまいには世の中が真っ赤になった。

円居挽『今出川ルヴォワール』読書感想

 

今出川ルヴォワール (講談社文庫)

今出川ルヴォワール (講談社文庫)

 

 

このシリーズの骨格でもある私的裁判の『双龍会』を前座に据えることで、今までの作品とは趣の違う物語となっているのが特徴的。シリーズ特有の登場人物たちの青春群像劇を進めていく上で、今まで語られずに伏せられていた達也の過去が密接に絡むストーリーとなっているが、一先ず綺麗に収まるところに収まり、完結編への強烈な余韻を残すという幕切れが印象的である。

本作では『双龍会』のシーンは言うならば茶番であるが、密室とアリバイが技巧的に絡んだ状況をギリギリの攻防を繰り広げるという点で、油断ならない質である。

明らかにカーの『ユダの窓』に似た状況をベースに、〝達也自身が口を閉ざしている〟という難しいパターンを加味して、青龍師側は勝利に持っていくプロセスが描かれており、なんともスリリングである。その流れの中で、達也の過去が明らかになるというストーリーラインが巧妙に絡むことで、達也の目的が明瞭となる。

そして、それ自身が〝手段〟であり、復讐への相手が一種のフーダニットであったことが分かり、そこに新たなハウダニットが添加されるという流れがスムーズである。

ミステリ・パートとしては、やはり『双龍会』が 目玉であるが、本作ではそれよりもコン・ゲーム的な『権々会』がメインとして描かれている。強烈な騙し合いが二転三転する様は『賭博黙示録カイジ』を彷彿とさせる。これまでのシリーズを通して登場してきたキャラクター達が、新たな勝負事に興じることで、『双龍会』とは違う味が表現されているところがミソ。

作者が用意したゲームの単純明快さ、そこに何でもありな破天荒な様が加わり、豪快な勝負になっているので、飽きる事無くゲームの行方を追うことが出来る仕組みとなっている。

『権々会』でのラストの大掛かりなトリックは、圧倒的に尽きる。交じるはずのなかった『双龍会』のシーンで使われたピースが、伏線として使われたのは巧妙。各自に独立していた舞台の装置が一つの作品として合わさる快感があり、爽快的であった。

本シリーズの特徴の1つに、〝同じネタを敢えて使う〟があるが、本作もそれから外れず。期待を裏切らない出来であった。

しかし、ミステリとしては前作ほどの仕掛けは無く物足りないか。