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しまいには世の中が真っ赤になった。

マイクル・イネス『ストップ・プレス』 読書感想

 

ストップ・プレス 世界探偵小説全集 (38)

ストップ・プレス 世界探偵小説全集 (38)

 

マイクル・イネス『ストップ・プレス』を読む。

殊能センセー的40年代イネス作品ランキングで堂々の2位に位置付けているユーモア長編。殊能センセーの「高尚で文学的なミステリ」を読みたくない気持ちをそのまま壮大なユーモアで包んだかのような作品で、捻りやギャグが全編に渡って描かれ、かつしつこくない程のドタバタ喜劇仕立てとなっているところはイネスの技術力。そこがスラップスティックに寄り掛かるという訳でもなく、ミステリとユーモアの絶妙なバランスを取っているところとか見事。

殊能センセ―は「気楽にげらげら笑って下さい」と仰っていましたが、詩の引用など文学知識が問われる場面が多く、分かりやすい笑いはあまり無いのですが(分かる人には笑えるツイストの効かせ方なのでしょう)、それでも多くの人物たちの掛け合いや奇妙奇天烈なジョーク(事件)が、読者を焦 らすかのような構成になっているところはポイントでしょう。

人を喰ったかのような展開と読むほど癖になってくる味わいが魅力的です。そして、本格ミステリ的な解決篇の構図は実にユニークそのもの。動機含めて、人物たちの奔走っぷりが笑うに笑えないヘンテコさ。

そして、タイトル回収とつくづくシャレています。真相の面白さなどを考慮しても、しっかりしたミステリを求める人には圧倒的不向きですが、殊能ファンとカーファンと「くだらないことを真面目にやっているミステリが好きな人」は読むべきでしょうか。

1年に1度読み返すことは多分無いでしょうが、3~5年に1度読みたくなるような高カロリー本です。