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坂木司『シンデレラ・ティース』読書感想

 

シンデレラ・ティース (光文社文庫)

シンデレラ・ティース (光文社文庫)

 

 坂木司の連作短編集。青春ミステリの形を綺麗に紡ぎ、温かく優しい人々が溢れている人間模様に新鮮さと初々しさを感じさせる本書。

人が死なないミステリ。

所謂、日常の謎系である。
患者のふとした謎や不思議やその悩みに纏わるライトなミステリであり、非常に読み物としては隙間時間に読むものに適している。普段、読書をしない方にも手軽にお勧めが出来る本の出来となっており、安易なラブコメエッセンスも人によっては笑い話で済ませられるだろう。人によっては敬遠する理由となるかもしれないが。
語り手の若さ特有の勢いに共感が出来れば、リーダビリティは高い。

しかし、その青臭さが鼻に付く場合は辟易としながら、ページを捲らなければならないのは致し方ないことかもしれない。この辺の青春模様は読者の年齢層によっては壁を作ることになるだろう。

それでも歯医者を舞台にしたストーリーには、確かな力強さがある。やはり、と言うべきか。安心の坂木司ワールドが炸裂している。
坂木ワールドを支えているのは、語り手のサキのキャラクター以外に他ならない。

例えるなら、少女漫画ぽいテイスト。それが坂木ワールドの甘酸っぱさであり、根幹だ。それ以外の登場人物にも優しさは溢れている。しかし、これだけ登場人物と濃い面々の特性に反発する要素がないだけに、歯応えとしては微妙な感は否めないかもしれない。人物関係での起伏が少ないのは瑕である。そこはこのテイストの短編の限界かもしれない。舞台が歯医者という狭さあるが故に、御都合主義やら優しい世界やらという烙印を押されるのも頷ける内容ではあることは否定しない。それでも、確実に読者の心を打つ陽だまりのような明るさが、ここにはある。

読後感の爽やかさは保証できる。ただ、物語の終幕がやや 駆け足気味だったのが評価をさらに分ける要因になりそうだ。

ただでさえ、恋愛描写に説得力が無いのも痛恨といえる。この程度のほんのりとしたロマンスが、アリな人にはアリであることも事実なので、その辺は個人の嗜好と言える。
一先ず疑問符のあるラブコメエッセンスは置いといても、無愛想だった人物が徐々に心を開いていく様は読んでいて頬が緩むものだ。
本作には姉妹編として『ホテル・ジューシー』がある。サキの親友のヒロちゃんが、南の太陽を燦々と浴びて働くといった内容である。同じ夏休みに2人の女性はそれぞれ違う場所で、色々な人間に振り回されていく。
6月。これから陽射しが鬱陶しくなる季節になっていく。その煩わしさを振り払うにはもってこいの爽やかな物語である。

そろそろ、夏がやってくる。背中を後押ししてくれる夏が。