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ミゲル・ロドリゴ『フットサル戦術パーフェクトバイブル』書籍紹介

 

フットサル日本代表監督ミゲル・ロドリゴの フットサル戦術 パーフェクトバイブル

フットサル日本代表監督ミゲル・ロドリゴの フットサル戦術 パーフェクトバイブル

 

 指導者目線、観戦者目線とそれぞれの違いはあるにしても、共通していえるのは本書がフットサルの教科書であることだ。

個人と集団戦術のオモチャ箱といっても過言ではないだろう。言及されていない個人戦術、グループ戦術はあるにしても、ある前提において一式揃えている本書はフットサル観戦に欠かせない。

丁寧な図解が挿まれているが、それぞれの選手の動きを頭の中でイメージすることで、試合中に発生した現象に対して明快さが伴ってくる。勿論、動画ではないので脳内である程度は「絵」を動かす必要性はあるが、本書を手に取ろうと思った人間はその辺を容易にクリアしていることだろう。そうでないと、そもそも本書に興味をもって手に取って読んでみようと思わないはずで。

 

第1~5章からなる構成で各章それぞれ読み応えがあるが、特に『リスタート』についてここまで豊富に揃えて書籍化したものは珍しい。動画解説ならばまだしも。キックイン、コーナーキックフリーキックといったリスタート時の配置とパターン別を書籍なので静止表現になってしまうが、キック前の配置状況が読み取りやすいので功を奏して表現的にハマっている。 

今年の3月に初めて手に取ったが、とても良い。それから4回ほど読み返すくらい素晴らしい本である。その都度勉強になり、以前読んだ時には見つけられなかった発見と出会える。

フットサル観戦者にとって、本書はライト層~中間層への橋渡し的なもので、フットサル沼に深く潜るための準備として避けて通れないと思う。これを抑えれば完璧とまでは言えないが、読み物としてのフットサルにとってマスターピースであることは保証しよう。

とはいっても、フットサルファンだけではなくて、サッカーファンにも自信をもって勧めたい。フットサルファンだけで共有されるのみではあまりに勿体無いクオリティである。フットサルの要素がサッカーに導入されている現代サッカーにおいて、フットサルの動きや仕組みを知ることは、サッカーにも還元できる。

headlines.yahoo.co.jp

 

私自身はサッカーの勉強から、フットサル観戦に入ったが、フットサル単体の魅力に心を奪われて最終的にはフットサルファンになった。私のように今季からFリーグをはじめとするフットサル観戦に興味を持つキッカケになってくれたら幸いである。以下から本書の内容を紹介する。

futbolman.hatenablog.com

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「(略)内容は十分サッカーにも参考になることであるし、何より今まで読んだどんな指導書より、体系立てて書かれていたのだ。」 岡田武史

図解を交えながら、オフェンス側のみならずディフェンス側にもスポットを当てている部分があるのは本書の強みであろうか。

特に『守備戦術』の章における、前プレとハーフからのプレスの違いは、単純なラインの高低だけではなく、スペースの大小の違いからアクションを取る相手オフェンスの動きのケース毎に明確に表現されていることで、相手オフェンスの動きに合わせてマークを受け渡すのか/付いていくのかまで書かれている。その際の約束事はチームによって分けられるので、当時指揮していた日本代表を例に持ち出されているようなものではないが、サインの決め方といった例は提示されている。

それはオフェンス視点でも同様で、ディフェンスの対応に合わせて他の選手の動きにも触れられている。「3人目の動き」に通じるものである。

 

なんといっても、本書の特徴は「3-1」をベースに話が展開されているところだろう。フットサルのシステム論は流動性が高いので、サッカー以上にあくまでも数字上の表記の域を出ないものであるが、動画ではなくて書籍という媒体にはハマり易い。それぞれのポジショニングと動きが書かれているので、スタート地点の目安になりやすい。

しかし、『守備戦術』と『攻撃戦術』の章は攻守ともに「3-1」を出発点としているので、システムの噛み合わせ方の話が冒頭に提示されているが、「2-1-1」や「クワトロ」の守り方については触れられていない。あくまでもシステムの噛み合わせ方のみで、それ以上の具体的な守備の仕方については「3-1」にスポットを当てられている。

攻撃においても同様で、「2-2」や「クワトロ」の攻撃戦術には触れられていない。あくまでも「3-1」をベースに話を展開しているので、後述するが、ピヴォと偽ピヴォの両システムに突っ込んだ戦術的な動きが書かれている。

「3-1」メインとはいえ当然のように全ての動きを網羅して列挙しているわけではなく、この内容でも限定的に違いないが、現時点で日本国内でこれ以上にフットサルの動きについて体系的に書かれているものは存在しないだろう。

 

 

 第1章 ポジション

ピヴォ、アラ、フィクソ、ゴレイロの基本的な役割とそれぞれのポジションのタイプ別役割について書かれている。

要するにイントロダクション的位置付けで、フットサルを知らない/観たことのない人用に基本的な事柄を抑えるための情報が割かれている。巻末にはサッカーとフットサルのルールの違いが掲載されている。

 

第2章 守備戦術

自陣に引いて守ることは、選手から考える機会を奪い、チームの発展にも繋がらないので、本書ではあえて紹介しない

 本書のスタンスとして、これほど明快なものはないだろう。スペインの守備文化と日本の引いてしまう守備文化に触れた上で、ミゲル・ロドリゴの指導方針を明らかにしている。

内容は大きく分けて『前プレ』と『ハーフからのプレス』

 

『前プレ』

敵陣の半分あたり=相手ゴールラインから12メートルあたりをプレスのスタート地点の基準とする。

前プレはスペースのケアが難しいので、1stラインが突破された後の処理、動き方

→原則として斜めに走ってボールホルダーをディレイ→その他はハーフラインまで撤退→ラインの高低コントロール

→『ハーフからのプレス』か自陣に引くかどうか。

前提としてシステムの噛み合わせが基本である。

その上で、パスライン含めたプレスの掛け方。寄せる際の距離は、サッカーよりもコンパクトな1メートル以内。

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そして、マークを受け渡す時/抜けた相手に付いていく時→声掛けの重要性。ボールホルダーにプレスが掛かっている時or攻撃側がライン間で止まらずに長い距離を抜けていく時など。

ライン間への動きに対して→死角からのチャレンジ。

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偽ピヴォのポジショニングによってマークの位置の移動→ケース毎の1stラインか3人目のDFか→ジャンプか絞ったDFによるマークの受け渡しか。

『ハーフからのプレス』

1stラインが低いので、カバーするスペースが狭くなる。ハーフで固定ではなくて、ハーフを出発点としてラインを上げるのが目的。

基本としてシステムの噛み合わせ。嚙み合わせが緩いと、スペースが空いていしまう。

ハーフからの押し上げのタイミング→緩いパススピードと受け手の姿勢(前)とパスのベクトル(前)と受け手のコントロールミスが挙げられている。 

DFラインを下げないで守ることが最大の目的であるので、高い位置を保ちながらディフェンスをするためにマークを受け渡す必要性がある。楽をしたりとか、自分がマークに付き切れないばかりに味方にカバーして貰うための受け渡しは禁止と表記。

マークを受け渡すケース→水平方向のポジションチェンジや味方がマークを離した時。

ラインを下げないで守るために、相手のライン間に入った際の死角からのプレスについて→逆FPの絞りとパスコースの遮断→2枚目のDFとの連動。

ボールを持っていない選手が前に上がってきた(カット・インなど)ときは、1人目、2人目まではマンマークすることで、攻撃のバランスを崩す→ストロングサイドでの孤立→アイソレーション的状況の成立。

1 stラインが突破されたら→2列目によるカバー(絞り)+ディレイ+1列目が斜めに走りながら戻る。

ピヴォ当て対策のフィクソの守り方→中央でのピヴォ相手には前に入る サイドでの偽ピヴォ相手には横に付くようにして守る。ボディコンタクトについては触れられていないが、それでもピヴォにボールが入ったらDFは全員ラインを下げるように撤退。

1対1の処理やボールを奪われた直後のリアクション→全員がボールラインまで撤退&カバー。

基本的にはボールラインまでの撤退は当たり前。エントレリネアスに対しては死角から。

 

第3章 攻撃戦術

本書の目玉とも言えるくらいのボリュームが割かれている。

3-1をメインに、フットサルにおける「ベースとなる動き」とそれを組み合わせた「戦術的な動き」が攻撃パターンの核でありセオリーとして書かれている。

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パラレラの変化の付け方→直線的な動きとリズムの違いを加えることで変化を加える。本書ではピヴォ、逆サイドからのパラレラ(ロングパラレラとは異なる)に触れてから、守備の仕方としてスライド、カバーリング(マンツーマンには言及なし)が挙げられている。

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ダイアゴナル

サッカーのダイアゴナルランよりも、本書内で持ち出されているスペインでは「Jの形」の方がしっくり来る。ボディコンタクトについても書かれており、守備の仕方としてスライド、マークの受け渡しが挙げられている。

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ピヴォット フィクソの動きを例に。

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バ(本書ではゴーと表記)

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ワン・ツー

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クロス

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ア・ラ・コルタ(デスマルケを交えて) ア・ラ・ラルガ

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ブロック&コンティニュー

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エントレリネアス→その発展としてプエルタ・アトラス

ウィークサイドでのバックドア+相手DFの絞り、3人目の動き、フィクソのピン止め+フィクソをどう動かすか、ア・ラ・コルタ+死角を取るカット。

 

戦術的な動き 3-1 偽ピヴォ ピヴォ の2つのシステムからの動きパターンの好例を紹介

前述のベースとなる動きを組み合わせた応用編であるが、これが試合中では連続的に行われている。

2つのシステムを用いて、その一部を列挙。重点的にオフェンス側の動きが描かれているが、それに対するディフェンス側のリアクション(マークの受け渡しなど)も同時に触れられている。そのために、ディフェンスの対応によってオフェンス側が得られる選択肢が並行的に表現されている部分もある。

本書のメインとしては、カット・インをスイッチに戦術的な動きが描かれている。

また、ドリブルの要素は最低限。サイドドリブルはあるが、「3-1」で中央を動かした(消した)後の中央へのドリブル選択については言及は無い。あくまでもピヴォ当てがテーマとなっている。

本書の内容とは厳密には異なる部分もあるが、イメージが掴みやすいと思うので以下の動画を参考に。

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偽ピヴォ

アラのカット・インでDFを釣り、マークの受け渡しが行われた場合→バ。

アプローチが緩い場合→エントレリネアスと逆アラのバ。

カット・インから逆を使う場合→エントレリネアスかパラレラを用いて逆でストロングサイドの構築。

アラとデスマルケ込みでのピヴォの列調整、ピヴォット、マークの受け渡しによるフィクソのピン止めと裏抜け。マークの緩さからエントレリネアスと逆アラのバも含めて。

偽ピヴォのサイドにディフェンスを引きつけた場合として、偽ピヴォサイド=ストロングサイドの構築、偽ピヴォによるピン止め、サイドドリブル&ターン、逆サイドでの数的優位、空いているサイドへのパラレラによる崩し。

 

ピヴォ

ア・ラ・コルタによるピヴォへのパスコース→ピヴォへのパスコースをどのように作るか。

ピヴォへのパスコースを閉じたDFの動きに対して、空いているところからパスコースを作る。相手のポジショニングによって柔軟に選択肢を変える。

逆サイドのア・ラ・コルタとピヴォ当て→逆アラの予備動作とコントロール・オリエンタードの重要性。

パラレラとピヴォ当て→1~3枚目のグループ戦術。出し手のカット、DFの動かし方、マークを外す動き。パラレラに出すか空いたピヴォへのコースに出すか。他の選手の具体的なサポートの動きには言及なし。

パラレラとサイドチェンジとして、「3-1」→「2-2」に移行。ボールを動かして、ピヴォがサイドに流れたところを起点にしてピッチを広く使う。

ブロック+ピヴォ当て→ブロックで味方を自由にさせて、ピヴォのマーク外し。カーテンについては言及なし。前述のパラレラとサイドチェンジと組み合わせ可能。

カット(本書ではカット・イン)でDFを動かして、パスコース作りとパスが出せなかった後方の選択肢として、ブロックかサポートが挙げられている。

 

パワープレー 

サイドには逆足配置、低い位置で外から強いシュートが打てる選手、高い位置では素早くて決定力に長けた選手、コントロール・オリエンタードとキャンセルの重要性が説かれている。

パワープレーの目標として、ファー詰めとペナルティエリアへのクロスが書かれており、外からのシュート設計は言及されていない。 

重要な要素として、ライン間、一枚飛ばし、中央のスペース侵入と活用。

パワープレーを受けている数的不利側の守り方には、「1-2-1」と「2-2」があり、ミス待ちかアグレッシブか。ゴレイロの重要度、パスに対して寄せる速さについて言及されている。

「1-2-1」ならば高い位置のサイド奥(対角も)が空き、「2-2」なら中央が空いているのでそこへのパスを消さないといけない。

 

 第5章 トレーニング

指導者目線として本書に触れる際に見逃せないのは、P150~からの「分析的トレーニング」、「グローバルトレーニング」、「インテグラルトレーニング」の理論と方法と基本、それぞれのトレーニングの種類だろう。

具体的に図解で行われているものとして、パス練習、ポゼッション、カウンター、ピヴォ当てのトレーニングの一例が取り上げられている。

ミゲル・ロドリゴからの指導者としての心構えと技術面の指導方法として挙げられたのはこちら。

1 日々反復

2 両足

3 細かい点まで選手をコントロールして、指導者からフィードバックを行う

4 試合と同じスピード(強度)で行う

日本代表を指揮した実例によるチーム作りのイロハの項では、チーム作りにおけるミゲル・ロドリゴの哲学が書かれている。

本書で取り上げられた戦術をトレーニングでチームに落とし込めば、レベルアップは必然的ではないだろうか。特定の状況で判断するための落とし込む具体的なレシピは無いが、ミゲル・ロドリゴのトレーニング方法の「ストップ、シンク&プレー(ゲームフリーズ)」の連続で判断力と選択肢を養っていくということで、それについての方法論と重要なポイントは提示されている。